健保組合の4分の1が「解散水準」―高齢者医療を支える現役世代の負担が限界に近づく―

FP

1. 健保組合、2年ぶりの黒字でも…

健康保険組合連合会(健保連)が発表した2024年度の決算見込みでは、全国約1,400の健保組合の合計で145億円の黒字となりました。
前年度は1,365億円の赤字だったため、一見すると健全化したように見えます。

しかし実態は違います。
保険料率を引き上げて何とか収支を帳尻合わせしているだけで、半数近くの組合は赤字という厳しい状況です。


2. 過去最大の「高齢者医療への仕送り」

黒字転換の背景にあるのは、保険料収入の増加です。2024年度は9兆1,444億円と前年度比4.9%増えました。
内訳を見ると、

  • 賃上げ効果:2,277億円
  • 保険料率引き上げ効果:1,069億円

この「増収」の多くが、高齢者医療制度への拠出金に吸収されています。

拠出金は3兆8,591億円(前年度比5.7%増)と過去最大に達しました。
健保の経常支出のうち約4割が高齢者医療向け
に流れており、現役世代の「仕送り」構造がますます重くなっています。


3. 保険料率「解散ライン」に迫る組合が急増

健保組合の平均保険料率は**9.31%**と過去最高。
しかも、334組合(全体の24.2%)が保険料率10%以上に達しました。
さらに9.5~10%未満の組合も27.3%あり、半数以上が解散危機の水準に近づいています。

なぜ「10%が解散ライン」なのか?

  • 中小企業の従業員らが加入する「協会けんぽ」の平均料率が10%前後
  • 料率が並ぶと、健保組合を自前で維持する利点が薄れる
  • その結果、協会けんぽへ移行する動きが強まる

つまり、独自の健保組合が成り立たなくなるのです。


4. 協会けんぽ移行の光と影

協会けんぽに移行すれば、確かに保険料率が下がるケースがあります。
しかしその一方で、健保組合が独自に実施してきた

  • 人間ドック・脳ドックの補助
  • 生活習慣病予防健診
  • 健康づくりの福利厚生プログラム

といったサービスが失われる恐れがあります。

協会けんぽは国から1兆円規模の補助金を受けて運営されていますが、公費の投入が増えれば財政負担は国全体に跳ね返ります。


5. 制度の持続可能性と世代間の公平性

健保連は「現役世代の負担は限界」として、次のような改革を提言しています。

  • 70~74歳の窓口負担を2割から3割に引き上げる
  • 市販薬と同じ成分の薬は保険適用から外す

しかし、こうした改革は高齢者や患者団体の反発を招きやすく、実現は容易ではありません。
さらに日本医師会や病院団体は診療報酬の引き上げを要求しており、現役世代の負担を一層重くする可能性もあります。


6. まとめ ― 今後の論点

  • 健保組合の4分の1が保険料率10%以上で「解散水準」に到達
  • 高齢者医療への拠出金が過去最大となり、賃上げ効果を相殺
  • 協会けんぽ移行が進めば、個人にはサービス低下、公費には負担増という新たな課題が生じる
  • 制度を守るには「高齢者本人の負担見直し」と「医療制度全体の効率化」が避けて通れない

人生100年時代の社会保障は、現役世代だけでなく将来の自分自身を守る仕組みでもあります。
**「誰がどこまで負担するか」**という世代間の公平性を正面から議論する時が来ています。


🖋️参考:

  • 日本経済新聞朝刊(2025年9月26日)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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