財務省は、個人輸入品に適用されてきた「課税価格4割減」の特例を廃止する方向で調整を進めています。
中国系ECサイト「Temu」や「SHEIN」などがこの制度を利用して安価な商品を日本向けに販売しており、国内小売業者との間で税負担の不公平が生じているためです。
本稿では、税理士・FPの立場から、今回の見直しがEC事業者・個人輸入業・消費者課税の現場に与える実務的影響を整理します。
制度の概要 ― 「個人使用」目的に限定された税優遇
現在の制度では、個人が「自己使用目的」で海外から商品を輸入する場合、課税価格を4割引きして算出できます。
例えば3万円の商品を輸入した場合、課税価格は1万8千円とみなされ、輸入消費税は1,800円(=1.8万円×10%)で済みます。
一方、国内事業者が販売目的で輸入した場合には3,000円(=3万円×10%)が課されます。
この差額1,200円が「格安EC」の価格競争力を支えていたともいえます。
しかし、近年ではEC事業者が実質的に商業目的の輸入を個人名義で行うケースも散見され、制度の濫用が問題視されてきました。スマートフォンや衣類を大量に「個人使用」と偽って輸入する事例が確認されており、税負担の公平性を損ねています。
税理士・FPが注目すべき改正の方向性
財務省はこの特例を2026年度税制改正大綱に盛り込み、廃止する方針を示しています。これにより、個人輸入・EC輸入のいずれも原則として通常課税価格に戻る見込みです。
同時に、以下の見直しも検討されています。
- デミニミス・ルール(課税価格1万円以下免税)の再検討
→ 安価な少額輸入品にも課税を及ぼす方向で調整中。 - 一定規模以上のEC事業者に納税義務を付与
→ 販売代行型EC(マーケットプレイス)に対して、消費税の代理納付を義務づける案が有力。 - 商用輸入の判定基準の厳格化
→ 個人名義であっても、数量・頻度・販売実態などを基準に「事業者扱い」として課税する運用強化が想定される。 
税理士・FPにとっては、越境取引の課税スキームや顧客の仕入形態の確認プロセスを見直すタイミングになると考えられます。
実務上の留意点 ― 顧客対応と仕訳処理の整理
制度廃止後、実務で注意すべきポイントは以下の通りです。
① EC事業者(国内販売者)側
- 海外倉庫から直接配送される「越境EC型」は、課税事業者登録の対象拡大を想定。
 - 輸入消費税の仕入税額控除を主張する場合、課税価格・通関書類・インボイス番号の確認が不可欠。
 - 「個人使用」扱いで仕入れた商品を転売した場合、仕入控除が否認されるリスクが高い。
 
② 個人輸入業者・副業者側
- 個人で輸入・販売を行っている場合でも、反復継続性があれば事業所得として課税。
 - 特例廃止後は実質的に「仕入時点で通常課税」となるため、仕入消費税相当額の価格転嫁が難しくなる可能性。
 - インボイス制度下では、個人名義輸入でも適格請求書の整合性が求められるため、仕入証憑管理の徹底が重要。
 
③ 消費者・FP相談対応側
- 税制改正により、海外通販品の「関税込み価格」が上昇する見通し。
 - FPとしては、家計支出のインフレ要因として助言に反映する必要がある。
 - 海外ECサイトでの購入トラブルや返品対応にも、税額返還の手続きが絡む可能性があるため、総合的な消費者リスク管理を提案することが望ましい。
 
国際比較と日本の課題
EUや英国ではすでに2021年に付加価値税(VAT)の免税を廃止し、米国も2025年8月に関税免税を撤廃しました。主要国の中で「個人輸入優遇」を維持しているのは日本のみとされ、制度の時代遅れ化は明白でした。
税制の公平性を保ちつつ、国際的な電子商取引の潮流に整合的な仕組みへと転換することが求められています。
結論
今回の特例廃止は、単なる税制の「引き締め」ではなく、EC時代に対応した課税インフラ再設計の一環といえます。
税理士・FPとしては、
- 輸入形態の確認、
 - 課税区分の明確化、
 - 海外EC取引の証憑整備、
といった実務面を早期に整えておく必要があります。 
同時に、消費者への説明や事業者への経営助言を通じて、「公平で持続可能な税制」への橋渡し役を果たすことが期待されます。
出典
出典:2025年11月3日 日本経済新聞朝刊「個人輸入の税優遇廃止」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO92352010T01C25A1MM8000/
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  