中国系ECサイト「Temu」や「SHEIN」で格安商品を購入する人が増えています。その背景には、個人輸入品に対して消費税や関税を軽減する特例制度の存在がありました。しかし財務省は、この制度を2026年度の税制改正で廃止する方向で調整を進めています。制度が設けられた時代背景と、見直しに踏み切る理由を整理します。
制度の概要 ― 個人輸入だけ「4割引き」の課税特例
現行制度では、個人が「自分で使う目的」で海外から商品を輸入する場合、課税価格(税金計算の基礎額)を通常より4割下げて計算できます。
たとえば3万円の商品なら、課税価格を1万8千円とみなして消費税を計算します。結果として、国内小売業者が輸入する場合より約1,200円も税負担が軽くなります。
この特例は、国内の個人がECサイトを通じて購入した場合にも適用されており、TemuやSHEINが日本向けに「驚くほど安い価格」を提示できる理由の一つになっていました。
なぜ廃止へ? ― EC拡大で「時代遅れ」になった特例
この制度は1980年に導入されました。当時は海外旅行がまだ珍しく、個人が持ち帰る「お土産品」の税負担を軽くする狙いがありました。しかし、インターネット通販が普及した現代では、当初の目的と大きくかけ離れています。
さらに、海外EC経由の輸入申告件数は2024年度に約2億件と、わずか5年で約4倍に増加しました。個人輸入を装った商用取引も増え、スマートフォンを大量に「個人用」と偽って申告する事例も確認されています。こうした中で、国内小売業者だけが通常の税負担を負う不公平が顕在化しています。
国際的な動向 ― 「免税見直し」は世界の潮流
諸外国でも少額輸入品に関する税優遇を見直す動きが相次いでいます。
- EU・英国:2021年に付加価値税(VAT)の免税を廃止
 - 米国:2025年8月に関税の免税を撤廃
主要国で同様の制度を維持しているのは日本だけとみられ、国際的にも是正が求められていました。 
財務省は同時に、「1万円以下の輸入品は消費税を免除するデミニミス・ルール」も見直す方針です。売上規模の大きいEC事業者に消費税を代わりに納付させる仕組みを導入する案が検討されています。
国内への影響 ― 価格競争と税収、公平性の再設計
制度廃止により、海外ECの商品価格が相対的に上昇し、国内小売業者との価格差が縮まる見込みです。一方で、消費者にとっては「手頃な海外通販価格」が見直されることになります。
国としては、税収確保だけでなく、偽ブランド品や違法薬物の流入リスク低減にもつながると見られます。
今後は、海外ECの課税ルールや徴収体制をどのように整えるかが焦点となります。
結論
かつて「旅行土産の特例」として始まった個人輸入の税優遇は、グローバルEC時代においてはもはや公平な制度とは言えません。財務省の廃止方針は、国内事業者の競争環境を整えるうえで大きな一歩といえます。
消費者としては「安さの理由」を理解しつつ、制度改正後の価格変化や税負担のあり方にも注目しておくことが重要です。
出典
出典:2025年11月3日 日本経済新聞朝刊「個人輸入の税優遇廃止」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO92352010T01C25A1MM8000/
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  