修繕費か?資本的支出か?― グレーゾーンを読み解く実務判断(調査官の指摘 vs 会社の言い分②)

税理士
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「修繕費にしたらダメなんですか?」
「これ、資本的支出じゃないですか?」

税務調査で最も頻出するのがこのやりとりです。
支出内容が「現状維持のため」か「価値を高めるため」か、判断ひとつで損金算入できるかどうかが変わります。
令和7年度 全国統一研修会資料から、実際の“調査官 vs 会社”の攻防を4つの事例で見ていきましょう。


① 事業開始前の補修 ― 開業前でも「修繕費」になる?

A社は中古建物を購入し、営業所として使う前に、雨漏り補修・壁の塗り替え・床の修理などを実施。
会社は「改良ではなく現状回復だから修繕費」として処理しました。

調査官の指摘:開業前の支出は「取得価額」に含まれるため、修繕費ではない。
会社の主張:建物の価値を高めておらず、あくまで維持修繕である。

結論:調査官の指摘が正しい。

事業開始前の支出は、原則として資産の取得価額(法令54)に含める。
現状維持であっても“使用前”の段階では「修繕費」とはならない。

実務ポイント

  • 開業前の修理・改装は原則として「資本的支出」扱い。
  • 「開業後すぐの補修」かどうかが線引きのカギ。

② 電動フォークリフトのバッテリー交換 ― 部品交換でも資本的支出?

A社は工場で使う電動フォークリフトのバッテリーを80万円で交換。
会社は「性能維持のため」として修繕費処理しました。

調査官の指摘:バッテリーは主要構成部品であり、寿命を延ばすため資本的支出。
会社の主張:本来の機能を維持するだけで、性能向上はしていない。

結論:調査官の指摘が正しい。

電動フォークリフト(耐用年数4年)の主要部品であるバッテリーを交換すると、
資産全体の寿命を延長させると判断され、資本的支出に該当。

実務ポイント

  • 「主要構成部品の交換」は資本的支出の可能性が高い。
  • 維持修理かどうかではなく、“耐用年数への影響”で判断。

③ 両替機の紙幣識別装置取替費用 ― 新札対応は改良?維持?

令和6年の新紙幣発行に合わせ、A社(ゲームセンター)は両替機やコイン販売機の紙幣識別装置を新型に交換。
会社は「従来と同じ両替機能の維持」として修繕費処理。

調査官の指摘:新札対応により新しい機能が付加されたため資本的支出。
会社の主張:機能は変わっておらず、性能維持にすぎない。

結論:会社の主張が認められる。

両替機の本来機能(紙幣→硬貨の交換)は変わらず、
通常の維持管理・原状回復のための支出と判断。

実務ポイント

  • 新技術対応でも「機能追加」がなければ修繕費でOK。
  • 目的が「法改正対応」「新札対応」「安全基準適合」などのケースでは慎重な説明書を。

④ ガラス飛散防止フィルムの取付 ― 二つの性質を併せ持つ支出

A社は自社ビルの窓ガラスに合成樹脂製フィルムを新たに取り付け(費用100万円)。
目的は「ガラス飛散防止」および「空調効率の向上」。
会社は修繕費処理をしました。

調査官の指摘:価値を高めており資本的支出。
会社の主張:安全性確保と維持管理のための支出。

結論:会社の処理が妥当。

フィルムは建物の価値向上効果もあるが、同時に安全性維持・災害対策の性質を持つため、
実務上は修繕費として認められる。

実務ポイント

  • 建物全体の価値を上げる目的か、維持・安全性確保目的かを明確化。
  • 見積書や社内決裁書に「災害対策・安全維持目的」と記載しておくと有効。

🧾 まとめ ― 修繕費と資本的支出の「判断基準」を持とう

見極めの視点修繕費資本的支出
支出の目的現状維持・原状回復改良・機能向上
効果の期間一時的・短期的長期的に価値を高める
耐用年数への影響変わらない延長・増加する
金額規模少額・部分修理多額・全体改良
発生時期使用中・営業中使用前・取得時

💬 税理士の視点からの教訓

  • 「効果の有無」ではなく「資産の性質・使用目的」で判断する。
  • 建物や設備の“部分単位”での判断は、見積書・写真など証拠資料の添付が有効。
  • 税務調査では、「なぜ修繕費と判断したのか」を論理的に説明できるかが問われる。

📚出典
東京税理士協同組合 教育情報事業配布資料
「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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