保険販売の新時代 ― 「特定商品おすすめ禁止」で何が変わるのか?

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2025年春、金融庁が打ち出す新たな指針が、保険販売の現場を大きく変えます。
これまで当たり前だった「この保険がオススメですよ」という営業トークが、原則として禁止されるのです。


◆「特定の保険商品を推奨」禁止へ

金融庁は来春にも保険会社の代理店が特定の商品を推奨することを禁じる監督指針を導入します。
背景にあるのは、長年にわたり保険販売の現場で続いてきた「販売会社都合の営業」――つまり、顧客ではなく、代理店や保険会社の事情に合わせた販売手法です。

これまでは、「特定の商品を勧める理由を説明すればOK」とされていましたが、改正後はこの規定が削除されます。
今後は、

  • 顧客の意向に基づいて最適な商品を提案する
  • もしくは、複数の商品を示して顧客自身に選んでもらう
    ことが求められます。

◆「テリトリー制度」が成り立たなくなる

損保業界では、特定エリアの自動車ディーラーなどが特定の保険会社の商品を扱う「テリトリー制度」が存在してきました。
旧ビッグモーター事件を思い出す方もいるでしょう。事故車の紹介実績と引き換えに、特定の保険契約を割り振る――そんな慣行が問題視されました。

新指針では、こうした構造的な“囲い込み”の抜け穴を封じる方針です。
便宜供与や出向、広告協賛といった裏取引的な関係が、顧客の商品選択を歪めてきたことへの反省がにじみます。


◆「顧客本位」を“建前”から“本音”へ

金融庁はこれまでにも、「出向者が募集活動に関与することの禁止」や「便宜供与の明確化」など、段階的にルール整備を進めてきました。
今回の改正はその第2弾
保険代理店を監督するための新組織「保険代理店監督企画室」も設置され、実効性を高める体制が整いつつあります。

これは単なる規制強化ではなく、「顧客本位の業務運営」(Customer First) を本気で実現しようとする試みです。
顧客の利益より「販売件数」「手数料」を優先してきたビジネスモデルが、いよいよ限界を迎えようとしています。


◆販売現場に求められる変化 ― 教育とデジタル化

一方で、販売現場の混乱も予想されます。
複数の保険会社の商品を的確に比較・説明するためには、販売員に高度な商品知識が必要です。
対応策としては、

  • 教育研修やeラーニングの強化
  • 顧客の意向をヒアリングし、自動的に最適商品をマッチングするデジタル販売支援ツールの導入
    などが考えられます。

AIを活用して「顧客の意向把握→商品提案→比較説明」を一貫サポートする仕組みは、今後の代理店経営に欠かせないインフラになるでしょう。


◆FP・保険代理業への影響

FP(ファイナンシャル・プランナー)や保険代理業を営む人にとって、今回の改正は“チャンス”でもあります。
「どの会社の商品を売るか」ではなく、
「お客様の人生にどんなリスクがあり、どんな備えが最適か」
という真のコンサルティング力が問われる時代になるからです。

これからの保険販売は、
「販売」ではなく「設計・選択の支援」。
“顧客本位”がようやくスローガンではなく、現実になる転換点に差し掛かっています。


◆まとめ ― 信頼で選ばれる時代へ

保険は「不安をお金で安心に変える」商品。
その信頼が、販売側の不透明な関係で揺らいでしまっては本末転倒です。
金融庁の新指針は、業界全体に「顧客に誠実であれ」という強いメッセージを投げかけています。

これからは、

  • 顧客の意向を丁寧に聞き取る
  • 客観的なデータで比較・提案する
  • 利害関係を透明化する
    ――そうした誠実な販売こそが、長く信頼されるビジネスの土台になるでしょう。

出典:
2025年10月23日 日本経済新聞朝刊「特定の保険商品、推奨禁止」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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