医療、介護、年金は、社会保障の中核として一体で語られることが多い分野です。
一方で、住宅政策はこれまで、経済政策や都市政策の文脈で扱われ、社会保障とはやや距離を置いて議論されてきました。
しかし、年金世代の生活実態を見ていくと、住宅は医療や介護と切り離して考えられる存在ではありません。
本稿では、住宅政策が医療・介護とどのようにつながっているのか、その構造を整理します。
住まいは医療・介護の前提条件
高齢期の生活を支えるうえで、医療や介護サービスの充実は欠かせません。
しかし、それらが十分に機能するためには、安全で安定した住環境が前提になります。
段差の多い住宅や断熱性の低い住まいは、転倒事故や体調悪化のリスクを高めます。
住宅の状態そのものが、健康状態や介護の必要性に直結しているのが現実です。
「自宅で暮らし続ける」という政策目標
医療・介護政策では、施設依存を減らし、可能な限り自宅で暮らし続けることが基本方針とされています。
在宅医療や訪問介護の拡充は、その象徴です。
しかし、自宅が医療や介護に適していなければ、この方針は実現しません。
住宅政策が追いつかなければ、医療・介護政策だけを整えても限界があります。
住宅改修は介護予防そのもの
バリアフリー化や耐震補強、断熱改修は、単なる快適性向上ではありません。
転倒や事故を防ぎ、介護状態への移行を遅らせる効果があります。
これは、介護が必要になってから支えるのではなく、必要になる前に防ぐ取り組みです。
住宅改修は、介護予防の一環として位置づけることができます。
住環境と医療費・介護費の関係
住環境が悪いほど、医療や介護の利用が増える傾向があります。
寒暖差による体調不良、転倒による骨折などは、その典型です。
住宅への投資は短期的には費用がかかりますが、長期的には医療費や介護費の抑制につながる可能性があります。
この点は、住宅政策を社会保障の一部として考える大きな根拠になります。
「住宅は自己責任」という考え方の限界
これまで住宅は、個人の選択と責任に委ねられる分野とされてきました。
しかし、高齢期における住環境の問題は、個人の努力だけでは解決できないケースが増えています。
住まいが原因で医療・介護負担が増えれば、そのコストは社会全体で負担することになります。
住宅を社会保障から切り離して考えること自体が、現実に合わなくなりつつあります。
地域包括ケアと住宅政策
医療・介護分野では、地域包括ケアシステムの構築が進められています。
地域で暮らし続けるためには、医療や介護だけでなく、住宅、交通、生活支援が一体となる必要があります。
空き家活用や住み替え支援も、地域の医療・介護体制と連動してこそ意味を持ちます。
住宅政策は、地域包括ケアの基盤を支える重要な要素です。
住宅政策に求められる視点の転換
今後の住宅政策には、三つの視点が求められます。
第一に、高齢期を見据えた住環境整備を医療・介護政策と一体で設計すること。
第二に、新築取得支援から、既存住宅の改修・再生への重点移行。
第三に、住宅への支出を「コスト」ではなく「社会保障投資」として評価する視点です。
結論
住宅政策は、医療・介護と切り離された周辺分野ではありません。
住まいは、健康と自立を支える社会保障の基盤です。
年金世代が安心して暮らし続けられる住環境を整えることは、医療・介護制度の持続可能性を高めることにもつながります。
住宅政策を社会保障の一部として再設計することが、これからの日本に求められているのではないでしょうか。
参考
・日本経済新聞「住宅価格高騰、対策はある? 空き家有効活用後押しを」
・日本経済新聞「地方自治体は独自対策も」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
