はじめに
住宅ローン控除は、長年にわたり住宅取得を後押ししてきた代表的な税制優遇です。しかし、人口減少や空き家の増加、脱炭素政策の進展を背景に、その役割は大きな転換点を迎えています。
令和8年度税制改正大綱では、住宅ローン控除の適用期限を延長する一方で、「どの住宅を支援するのか」という政策メッセージがより明確になりました。本稿では、今回の見直し内容を整理しつつ、生活者の視点で注意すべきポイントを解説します。
住宅ローン控除は5年間延長される
まず全体像として、住宅ローン控除の適用期限は、令和7年末から5年間延長されることになりました。
一見すると従来制度の単純な延長に見えますが、実際には中身が大きく組み替えられています。今回の改正の軸は、「既存住宅の利活用促進」と「省エネ性能による選別」です。
既存住宅は「省エネ性能が高いほど有利」に
今回の改正で最も特徴的なのは、既存住宅の扱いが大きく改善された点です。
認定長期優良住宅やZEH水準省エネ住宅といった、省エネ性能の高い既存住宅については、
・借入限度額の引き上げ
・控除期間の13年への拡充
・子育て世帯等への上乗せ措置の対象化
といった優遇が用意されました。
特に注目すべきは、「新築と同等、あるいはそれ以上の扱い」を既存住宅に与えている点です。これまで住宅ローン控除は新築中心の制度でしたが、明確に方向転換が図られています。
一方で、省エネ基準を満たさない既存住宅については、借入限度額などの見直しは行われません。既存住宅全体を無条件で優遇するのではなく、「性能の高い既存住宅を選別して支援する」構造になっています。
省エネ基準適合住宅は段階的に縮減へ
今回の改正でもう一つ重要なのが、省エネ基準適合住宅の位置づけの変化です。
省エネ基準適合住宅は、これまで住宅ローン控除の中核的な対象でしたが、
・令和8年入居分から借入限度額を引き下げ
・新築住宅については、令和10年以降の入居分から原則として控除対象外
とされました。
背景には、国の住宅政策があります。令和12年度以降、新築住宅の最低省エネ基準がZEH水準へ引き上げられる予定であり、税制もそれに先行して調整されている形です。
つまり、省エネ基準適合住宅は「最低限の水準」と位置づけられ、税制優遇の主役からは外れていくことになります。新築住宅を検討する場合、ZEH水準以上でなければ住宅ローン控除の恩恵は期待しにくくなる点に注意が必要です。
床面積要件は既存住宅にも40㎡特例が拡大
床面積要件についても見直しが行われました。
これまで新築住宅に限定されていた40㎡以上の特例が、既存住宅にも拡充されます。
ただし、注意点があります。
この床面積要件の特例と、子育て世帯等への借入限度額上乗せ措置は選択適用となります。両方を同時に使うことはできません。
都市部のコンパクトな住宅を想定する場合、どちらを優先するかによって税額への影響が変わるため、事前のシミュレーションが重要になります。
立地要件の新設で「建てられる場所」にも制限
令和10年以降の入居分からは、立地要件も新たに導入されます。
具体的には、土砂災害などの災害レッドゾーンに該当する区域での新築住宅は、住宅ローン控除の対象外となります。
ただし、
・建替え
・既存住宅の取得
・リフォーム
については、引き続き適用対象とされます。
安全・安心な住まいを重視する政策意図は明確であり、今後は災害イエローゾーンまで対象が拡大される可能性も示唆されています。住宅ローン控除は、立地リスクの判断にも影響を与える制度になりつつあります。
新築より「高性能な既存住宅」が有力な選択肢に
今回の改正全体を通して見えるのは、
・新築か既存か
ではなく、
・省エネ性能が高いかどうか
・社会的に望ましい住宅かどうか
が重視される時代に入ったという点です。
特に、ZEH水準の既存住宅は、価格面で新築より抑えられる可能性があり、税制面では有利になるケースも増えます。今後の住宅選びでは、「新築=有利」という従来の常識は通用しなくなるでしょう。
おわりに
令和8年度税制改正における住宅ローン控除の見直しは、単なる制度調整ではありません。
住宅政策、環境政策、防災政策が一体となり、住宅取得の価値観そのものを変えようとしています。
これから住宅を取得する人にとって重要なのは、「いつ買うか」だけでなく、「どの性能・どの立地の住宅を選ぶか」です。住宅ローン控除は、もはや一律の減税制度ではなく、選択を迫る制度へと変わっています。
参考
税のしるべ
令和8年度税制改正大綱
国土交通省 住宅政策関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

