近年の住宅市場では、「買える人」と「買えない人」の差が急速に広がっています。
住宅価格の高騰はすべての世代に影響しますが、その影響の現れ方は世代によって大きく異なります。若年層は住宅取得のハードルに直面する一方で、相続世代は既に保有する住宅や不動産を通じて資産を維持・拡大しています。
この世代間の差は、単なる年齢差ではなく、住宅が金融化されてきた過程で生み出された構造的な格差といえます。
若年層が直面する住宅取得の現実
若年層にとって、住宅取得は「価格が高い」だけの問題ではありません。
問題は、住宅価格が所得の伸びを大きく上回ってきたことです。結果として、住宅取得は貯蓄ではなく、長期・高額の住宅ローンに依存せざるを得なくなりました。
返済期間35年超、ペアローンや収入合算、変動金利といった手法は、若年層に住宅取得の「機会」を与える一方で、将来の所得を前提とした不確実な賭けでもあります。
若年層は、住宅取得の時点で、雇用・金利・家族構成といった複数のリスクを同時に引き受ける構造に置かれています。
相続世代が持つ「住宅という資産」
一方、現在の相続世代は、比較的低い住宅価格と安定した雇用環境のもとで住宅を取得してきました。
住宅ローンを既に完済している世帯も多く、住宅は「住居」であると同時に、重要な資産として機能しています。
さらに、相続によって住宅や不動産が次世代に移転することで、住宅資産を起点とした世代内・世代間の格差が拡大します。住宅を相続できるかどうかが、その後の住宅取得や生活設計に大きな影響を与えるようになっています。
親の資産が左右する住宅取得
近年、若年層の住宅取得では、親からの資金援助や相続の有無が決定的な要因になりつつあります。
頭金の多寡、住宅ローンの借入額、返済期間の設定などにおいて、親の資産が「初期条件」として作用します。
この構造では、
- 親が住宅資産を持つ世帯の子は取得が容易
- 親に資産がない世帯の子は高リスクのローンに依存
という分断が生まれます。住宅取得は、個人の努力だけでは説明できない、世代間の資産移転の問題となっています。
住宅価格上昇が生む「見えにくい格差」
住宅の金融化が生む格差は、所得格差よりも見えにくい特徴があります。
持ち家世帯は、住宅価格の上昇によって資産価値が増加します。一方、賃貸世帯は家賃上昇の影響を直接受け、資産形成が難しくなります。
同じ世代内でも、
- 早期に住宅を取得した層
- 取得できず賃貸にとどまる層
の間で、時間の経過とともに格差が拡大します。この差は、老後や相続の段階でさらに顕在化します。
相続が格差を「固定化」する仕組み
住宅は流動性の低い資産であるため、相続によって格差が固定化されやすい特徴があります。
住宅を相続した世帯は、住居費を抑えつつ資産を保有できますが、相続できなかった世帯は高齢期まで住居費負担を続けることになります。
相続税は一定の調整機能を持っていますが、居住用住宅に対する特例や評価の仕組みにより、住宅資産は比較的保護されやすい構造にあります。結果として、住宅を起点とした世代間格差は、制度的にも温存されやすい状況にあります。
若年層の「持ち家離れ」は合理的選択か
若年層の持ち家率が低下していることは、しばしば価値観の変化として説明されます。しかし実際には、価格とリスクの上昇に対する合理的な反応と見ることもできます。
住宅取得が長期債務と不確実性を伴う以上、取得を見送る選択は必ずしも非合理ではありません。
問題は、賃貸を選択した場合の社会的支援が乏しいことです。持ち家を前提とした制度設計のもとでは、持ち家を持たない若年層は、将来にわたって不利な立場に置かれやすくなります。
世代間格差をどう緩和するか
住宅の金融化によって生じた世代間格差は、個人の努力だけで解消できるものではありません。
- 持ち家と賃貸に中立的な住宅政策
- 若年層の過度な債務負担を抑える制度設計
- 相続による資産集中を前提にしない生活保障
といった視点が不可欠です。住宅を資産形成の主軸に据え続ける限り、世代間の分断は拡大しやすいといえます。
結論
住宅の金融化は、住宅取得の機会を広げる一方で、若年層と相続世代の間に深い溝を生み出しました。
住宅は本来、生活を支える基盤であるはずですが、現在では世代間格差を再生産する装置としても機能しています。
住宅問題を世代論として片付けるのではなく、金融・税制・社会保障を含めた構造の問題として捉え直すことが、これからの政策と議論には求められているのではないでしょうか。
参考
・日本経済新聞「経済教室」
住宅確保をどう支えるか(上・下)
・住宅価格・住宅ローンに関する各種統計資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
