住宅の金融化が社会に残したもの― 住まい・家計・世代間格差を貫く構造を整理する ―

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住宅価格の高騰、住宅ローンの長期化、若年層の住宅取得困難、高齢期の住まい不安、世代間格差の拡大。
これらは一見すると別々の問題に見えますが、実際には「住宅の金融化」という一つの流れの中で連動して生じてきました。

本稿では、これまでのシリーズで扱ってきた論点を整理し、日本社会において住宅の金融化が何をもたらしてきたのかを総括します。


住宅はいつから「金融商品」になったのか

日本では1970年代以降、住宅取得が景気対策の柱として位置づけられ、融資拡大と税制優遇によって持ち家取得が強力に後押しされてきました。
その後、住宅金融の民営化、住宅ローン減税の継続、低金利政策の長期化により、住宅は「住むための器」であると同時に、家計最大の金融商品へと変質していきます。

住宅価格は所得ではなく「どこまで借りられるか」によって支えられ、住宅ローンは数十年にわたる債務として家計に組み込まれました。ここに、住宅の金融化の核心があります。


家計に集中したリスク

住宅の金融化は、家計にリスクを集中させました。
住宅ローンは、

  • 金利変動リスク
  • 雇用・所得変動リスク
  • 家族構成の変化
  • 健康・老後リスク

を一つの住宅に束ねる仕組みです。返済期間が35年、50年と長期化する中で、現役期だけでなく退職後まで返済が続くケースも珍しくなくなりました。

本来は老後生活の備えである退職金が、住宅ローンの最終返済原資として想定されるようになり、住宅問題は家計全体の問題へと拡張しています。


高齢期の住まいと制度の前提

日本の年金・社会保障制度は、暗黙のうちに「高齢期には住宅ローンを完済した持ち家に住んでいる」ことを前提として設計されてきました。
そのため、賃貸居住の高齢者に対する支援は限定的で、住居費の負担が生活不安に直結しやすい構造が残っています。

しかし、住宅ローンの完済年齢が上昇し、持ち家を持たないまま高齢期を迎える人が増えれば、この前提そのものが成り立たなくなります。住宅の金融化は、高齢期の住まいの安定性をも揺るがしています。


世代間格差を生む住宅構造

住宅の金融化は、世代間格差を拡大させました。
住宅価格が相対的に低く、雇用が安定していた時代に住宅を取得できた世代は、低負担で持ち家を確保し、価格上昇による資産効果も享受してきました。

一方、若年層は高騰した住宅価格のもとで、長期・高リスクのローンを前提にしなければ取得が難しくなっています。さらに、親からの資産移転や相続の有無が、住宅取得の可否を左右する要因になりつつあります。

住宅は、世代間で格差を再生産する装置として機能するようになりました。


税制が補強してきた構造

住宅ローン減税、相続税における住宅特例、所得課税中心の税制構造は、結果として住宅資産を保有する世帯を有利にしてきました。
住宅を取得し、相続できた世帯は、税制上のメリットを積み重ねることができます。一方、取得できず、相続も受けられない世帯では、所得課税と住居費負担が重なります。

税制は中立的に見えながら、住宅資産の有無によって効果が大きく異なる仕組みを内包しており、世代間格差を補強する結果となっています。


住宅を「投資」から切り離せるか

住宅価格の上昇は、投機を呼び込み、さらなる価格上昇を招きます。その結果、「住むための家」を必要とする人ほど不利な立場に置かれます。
短期転売規制や空き家対策といった対応は進みつつありますが、住宅を金融市場の論理からどこまで切り離せるかが、本質的な課題です。

住宅を資産形成の主軸とし続ける限り、家計リスクと世代間格差は解消しにくい構造にあります。


これから問われる視点

住宅の金融化が残した問題は、個人の努力や選択だけでは解決できません。
求められているのは、

  • 持ち家と賃貸に中立な住宅政策
  • 過度な長期債務に依存しない住宅供給
  • 相続を前提としない生活保障
  • 住宅を含めた税制・社会保障の再設計

といった、制度全体を見渡した視点です。


結論

住宅は本来、人生を支える基盤であるはずでした。しかし日本では、住宅が高度に金融化され、人生そのものが長期債務と資産価値の変動に組み込まれる構造が定着しました。
住宅の金融化は、家計リスクを拡大し、高齢期の不安を生み、世代間格差を固定化してきました。

住まいを再び「生活の基盤」として位置づけ直すこと。
それが、このシリーズを通じて見えてきた、最も根本的な課題ではないでしょうか。


参考

・日本経済新聞「経済教室」
 住宅確保をどう支えるか(上・下)
・住宅・税制・社会保障に関する各種公的資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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