企業現預金100兆円にメス ― コーポレートガバナンス改革の新段階へ

政策

◆ 5年ぶりの「企業統治コード」改訂へ

金融庁は、上場企業の経営透明性を高めるための「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」を、
2026年半ばに改訂する方針を打ち出しました。
議論が始まったのは2025年10月21日――つまり、高市早苗新政権の発足とほぼ同時期です。

今回の焦点は、企業が抱える現預金の巨額保有
企業が積み上げた資金を「ため込み」ではなく「投資」へと循環させる仕組みづくりが、改革の目的にあります。


◆ 現預金115兆円の“山” ― インフレ時代の問題意識

日本経済新聞の調査によると、東証プライム上場企業の2025年3月期末の現預金合計は115兆円
過去10年間、企業は内部留保を増やし続け、資金を積み上げてきました。

しかし、インフレ環境下では現金の価値が目減りするという現実があります。
企業が資金を眠らせるほど、経済全体の活力は低下します。
金融庁の有識者会議でも、「現預金の活用策を開示し、投資家に説明すべき」との意見が多数を占めました。

ただし、「企業が現預金を保有する合理性(不況リスク対応や買収防衛など)まで否定すべきではない」という慎重論も併存しています。


◆ 高市政権の姿勢 ― 「内部留保課税」への意識も

注目されるのは、高市早苗首相自身が現預金課税に言及してきた過去です。
著書(2021年)では、企業の現預金総額200兆円に1%課税すれば2兆円の税収になる――と述べています。
また、2024年の自民党総裁選では「内部留保の使い道を明示すべき」と主張しました。

金融庁の方針と首相の問題意識が一致しており、
「現預金を動かせ」圧力は今後さらに強まる可能性があります。


◆ 投資家目線の経営へ ― キャピタルアロケーション開示が主流に

市場も企業の資金配分(キャピタルアロケーション)に注目しています。

  • セブン&アイ・ホールディングスは、2031年2月期までに最大7.5兆円の資金を創出し、
     そのうち 約2兆円を自社株買い、約3兆円を成長投資 に振り向けると公表。
  • マツキヨココカラ&カンパニーも、中期経営計画で現預金と営業CFから
     2,000億円超を成長投資に充当する方針を示しました。

こうした動きは、単なる「資金の使い方」ではなく、
投資家との対話を深め、株価を意識した経営への転換を意味します。


◆ 「守る経営」から「活かす経営」へ

現預金の過剰保有は、かつて「安定経営」の象徴でした。
しかし今、企業は資金を活用し、社会・経済全体の成長を後押しする責任を問われています。

研究開発や人的資本への投資、DX(デジタル変革)、M&Aなど、
使い道の質が企業価値を左右する時代――それが今回のガバナンス改革の本質です。


◆ 「スリム化」も同時に進む改訂

一方で、今回の改訂では「開示項目の重複削除」も検討されています。
形だけの遵守ではなく、「説明責任の実効性」重視への転換です。
「細かすぎて回答に苦慮する」との声も多く、企業の負担を減らしつつ、
中身のある開示へと整理される見込みです。


◆ 結び ― 日本株上昇を支えたガバナンス改革の次章

企業統治改革は、この10年間で日本株の上昇を支える原動力となってきました。
東京証券取引所による市場区分再編、「資本コストを意識した経営」要請と並び、
今回の改訂は「ガバナンス改革の第2ステージ」を告げるものです。

企業に眠る100兆円超の現預金。
それを「安全資産」から「成長資産」へと変える――
日本経済の真の底上げは、まさにここから始まります。


📘 出典・参考
2025年10月22日 日本経済新聞朝刊「企業現預金100兆円にメス」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました