企業事例と今後の展望 ― 「制度」から「文化」へ

政策

改正育児・介護休業法がもたらす職場の未来(第3回)

2025年10月に完全施行された改正育児・介護休業法
第1回では「育児と仕事の両立」、第2回では「介護と仕事の両立」に焦点を当てました。

最終回となる今回は、企業の先進事例と今後の展望を取り上げ、制度をどう「職場文化」として根付かせていくかを考えます。


制度利用とフォロー ― 最大の課題は「不公平感」

育児や介護の両立支援制度が広がると、避けて通れないのが「誰がフォローするのか」問題です。

パーソル総合研究所の調査(2024年)によれば、制度利用者の業務をフォローしている社員の42.6%が不満を持っているとの結果が出ています。

  • 「自分に負担が偏っている」
  • 「評価されないのに大変な仕事ばかり回ってくる」
  • 「同僚が制度を使うのは理解できるが、気持ちよく支援できない」

こうした不満は、制度利用者に「申し訳ない」という罪悪感を生み、制度の利用をためらわせる要因にもなります。
つまり、利用者とフォローする側の双方が報われる仕組みづくりが欠かせません。


企業事例① エスエス製薬 ― 「フォロー手当」で納得感を高める

エスエス製薬は2025年4月、育休取得者が所属するチームのメンバーに最大10万円を支給する制度を導入しました。

人事部長は「同僚社員の負担増を考慮し、後ろめたさを軽減するため」と説明しています。

制度利用者にとっては「同僚に迷惑をかけている」という意識を和らげる効果があり、フォローする社員にとっては「金銭的にも報われる」という納得感が生まれます。

単なる「ありがとう」ではなく、目に見える形で感謝と評価を示すことが重要なのです。


企業事例② LINEヤフーコミュニケーションズ ― 公平性を重視した制度設計

福岡市に本社を置くLINEヤフーコミュニケーションズは、週休3日制など法定を上回る制度を導入しています。

同社が徹底しているのは「ノーワーク・ノーペイ」の原則。

  • 業務量を減らせば給与も減る
  • 同僚が肩代わりした分は報酬や評価に反映する

制度利用者が「得をする」わけでもなく、フォロー社員が「損をする」こともない。公平性を重視した設計が、摩擦を減らすポイントとなっています。

このように、ルールを明確にし、納得感を確保することが、職場の健全な制度運用につながります。


制度から「文化」への転換に必要な3つの視点

① 評価・処遇の仕組みを見直す

フォローする社員の貢献を人事評価に反映させることは必須です。
「制度利用=甘え」「フォロー=損」という意識をなくすには、評価制度の改革が欠かせません。

② デジタル活用で業務負担を減らす

生成AIやRPAなどの活用により、定型業務を効率化すれば、フォロー社員の負担を軽減できます。
「人が人をカバーする」だけでは限界があり、テクノロジーを味方につける発想が必要です。

③ 相互理解を深める仕組みを整える

明治安田生命の「かえるリレー」のように、全員が短時間勤務を体験するなど、「相手の立場を理解する」プログラムは制度定着の大きなカギです。


日本の未来に向けて ― 「ケアと就業の共存」へ

パーソル総合研究所は2035年に1,285万人がケア就業者になると推計しています。
もはや「一部の社員の特別な事情」ではなく、誰にでも起こり得る普遍的な課題です。

その時代に必要なのは、

  • 制度を「利用できる」こと
  • 利用しても「罪悪感を持たない」こと
  • フォローしても「報われる」こと

この三つを揃えることで、初めてケアと就業が両立する社会が実現します。


おわりに

改正育児・介護休業法は、働き方のルールを変える大きな一歩です。
しかし、本当に重要なのは「制度」ではなく、それを自然に使える「文化」を職場に根付かせること。

  • 利用者は胸を張って制度を活用できる
  • フォローする社員は正当に評価される
  • チーム全体が「支え合うことは当たり前」と感じられる

そんな職場文化が育つかどうかが、日本社会の未来を左右すると言えるでしょう。


📖 参考資料
「改正育児・介護休業法が完全施行」日本経済新聞(2025年9月28日付朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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