企業の財務戦略としてのビットコイン保有― メタプラネットとマイクロストラテジーの比較分析

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暗号資産を企業の財務戦略に組み込む動きが、世界的に広がっています。
その代表格が、米国のマイクロストラテジー(MicroStrategy)と日本のメタプラネット(Metaplanet)です。
両社はいずれも、余剰資金や資本調達を用いてビットコインを大量保有しており、
自社の株価や経営評価が暗号資産価格と連動する“ビットコイン企業”として注目されています。

本稿では、この2社の戦略を比較し、ビットコインを保有する企業に求められる会計・財務・開示上の留意点を整理します。


1. マイクロストラテジー ― 「財務戦略の中核」としてのビットコイン

米ナスダック上場のマイクロストラテジー社は、
2020年以降にビットコインを企業資産の中核に据えたパイオニア的存在です。

(1)取得経緯と規模

同社は2020年8月以降、社債発行や新株予約権付債(CB)を通じて資金を調達し、
累計で約22万BTC(約250億ドル超)を保有しています。
この数量は、発行済ビットコインの1%を超える規模に相当します。

(2)戦略の目的

創業者マイケル・セイラー氏は、「インフレヘッジと企業価値の保存」が最大の目的と説明しています。
同社はキャッシュリザーブを法定通貨からビットコインへと移行し、
企業財務を“デジタルゴールド”で保全する戦略を明確に打ち出しています。

(3)市場反応とリスク

株価はビットコイン相場とほぼ連動し、2024~2025年にかけての上昇局面では大幅高を記録しました。
一方で、暗号資産相場の下落期には財務評価損が生じ、
IFRS上も米会計基準上も減損処理の影響で純利益が大きく変動するリスクを抱えています。


2. メタプラネット ― 「日本版ビットコイン企業」への挑戦

日本のメタプラネット(東証スタンダード上場)は、2024年にビットコイン保有方針を発表し、
「日本のマイクロストラテジー」として注目を集めました。

(1)取得経緯と背景

同社はホテル運営などの事業を行う中で、資本増強を目的に公募増資を実施し、
調達資金の一部をビットコイン購入に充当しました。
2025年10月時点で約150BTCを保有し、段階的な追加取得を公表しています。

(2)目的と特徴

メタプラネットは、インフレや円安に対する通貨分散・資産保全を主目的に掲げています。
また、保有ポリシーや購入方針を英語で発信し、海外投資家への透明性確保を重視している点が特徴です。
その結果、同社株式は日本国内だけでなく、海外のビットコイン支持層(BTCファン)からの買いが増えました。

(3)リスクと課題

他方で、株価が暗号資産相場と連動しやすいため、
事業収益と財務評価損益が乖離する構造的リスクを抱えています。
また、日本基準ではビットコインの再評価益を認識できないため、
時価上昇局面でも会計上の利益には反映されません。


3. 比較分析 ― 共通点と相違点

項目マイクロストラテジーメタプラネット
上場市場NASDAQ(米国)東証スタンダード(日本)
保有量約22万BTC約150BTC
会計基準US GAAP(減損のみ、再評価不可)日本基準(無形資産、再評価不可)
調達方法社債・CB・増資など積極調達公募増資中心、慎重な取得
主目的インフレヘッジ・企業価値の保存通貨分散・対円資産防衛
リスク要因相場変動による損益変動大評価損計上と株価連動リスク
投資家層グローバル機関投資家中心個人・海外BTC投資家が中心

共通するのは、「ビットコインをキャッシュ代替資産とみなす経営方針」です。
一方で、マイクロストラテジーは「積極的な財務レバレッジ型」、
メタプラネットは「慎重な開示重視型」と言えます。


4. 税理士・会計士が注視すべきポイント

① 評価と開示

両社のように暗号資産を財務戦略に組み込む場合、
減損処理の方法・注記の明確化・外貨換算リスクの開示が重要です。
監査法人も近年、暗号資産の保有実態や管理体制を重点監査項目に位置づけています。

② 調達手法と税務処理

増資・社債発行により取得資金を調達する場合、
発行費用・利息・株式発行差金など、税務上の損金算入可否を慎重に判断する必要があります。

③ 財務報告と投資家説明

ビットコイン価格との連動をどう説明するかは、経営説明責任の中核です。
特に中小企業やスタートアップが追随する場合は、
「暗号資産の保有が事業の継続性をどう支えるか」を具体的に示すことが信頼確保につながります。


結論

ビットコインを企業の財務戦略に組み込む動きは、
単なる投資判断ではなく、通貨・資本・開示の新しい概念を含んでいます。
マイクロストラテジーはその象徴的存在として世界の注目を集め、
メタプラネットは日本企業として初めてそのモデルを実行に移しました。

税理士・会計士は、こうした動きを「投機的行為」と捉えるのではなく、
新たな企業財務の選択肢として分析し、
顧問先へのリスク説明・会計処理の指針整備・税務アドバイスに活かすことが求められます。


出典

  • 日本経済新聞「ビットコイン、崩れた経験則」(2025年10月31日)
  • メタプラネット株式会社 IR資料・決算短信(2024–2025年)
  • MicroStrategy Inc. Investor Relations(10-K・10-Q報告書)
  • 企業会計基準委員会「実務対応報告第38号」
  • IFRS Foundation, IAS38 “Intangible Assets”
  • 金融庁「暗号資産交換業者監督指針」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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