ここ数年、ビットコインをはじめとする暗号資産は、個人投資家だけでなく企業の投資対象としても存在感を高めてきました。特に米国では、事業会社が自社資金や社債発行によってまで仮想通貨を保有し、その結果として株価が急上昇する現象が注目されてきました。
しかし、2025年に入り、この「企業×仮想通貨」の循環に変化の兆しが見え始めています。指数算出会社によるルール変更や価格下落が重なり、投資熱が逆回転する可能性が指摘されています。
企業による仮想通貨投資ブームとは何だったのか
企業による仮想通貨投資は、当初「財務戦略の多様化」や「インフレヘッジ」といった名目で始まりました。しかし実態としては、ビットコインを大量に保有することで注目を集め、株価を押し上げる効果が重視されてきた面があります。
実際、ビットコイン価格の上昇率を大きく上回るペースで株価が上昇した企業も少なくありませんでした。この成功体験が、自社株や社債を発行してまで仮想通貨を購入する動きを広げ、結果として200社を超える企業が暗号資産を保有する状況に至りました。
MSCIの判断が突きつけた「線引き」
転機となったのが、指数算出大手による判断です。総資産に占めるデジタル資産の割合が一定水準を超える企業は、事業会社というより投資ファンドに近い存在であり、株価指数に組み入れるのは適切ではない、という問題提起がなされました。
指数から除外されれば、連動ファンドを通じた資金流出が避けられません。これは株価に直接的な下押し圧力を与える要因となります。企業側が強く反発するのも無理はありませんが、指数の中立性という観点からは、一定の合理性もあります。
株価とビットコイン価格の「逆回転」
今回の局面で注目されるのは、これまで成立していた循環が逆に働き始めている点です。
これまでは「ビットコインを買う → 話題になる → 株価がそれ以上に上がる」という好循環が存在しました。しかし足元では、ビットコイン価格の下落と株価の急落が同時に進み、企業価値の方が大きく毀損する状況が生じています。
株価と保有ビットコイン価値の比率を示す指標が1倍近くまで低下したことで、仮想通貨を持ち続ける合理性そのものが問われ始めました。
「売却」という選択肢が意味するもの
さらに象徴的なのは、これまで投資ブームをけん引してきた企業自身が、条件次第ではビットコインを売却する可能性に言及している点です。
もし大口保有企業が売り手に回れば、市場心理への影響は小さくありません。企業による仮想通貨投資は、価格上昇局面では増幅装置として機能しますが、下落局面では逆に下押し圧力を強める存在にもなり得ます。
結論
企業による仮想通貨投資ブームは、制度・指数・市場心理の三つがかみ合った結果として成立してきました。しかし、その前提条件が一つずつ崩れ始めています。
今回の動きは、仮想通貨そのものの終焉を意味するものではありませんが、「株価を押し上げる魔法の道具」としての位置づけが見直される転換点であることは確かです。
今後は、仮想通貨を保有しているという事実よりも、それが企業価値や事業戦略とどう結びついているのかが、より厳しく問われる局面に入ったといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「仮想通貨の投資熱、逆回転か」
・日本経済新聞 ウォール街ラウンドアップ(2025年12月24日夕刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
