令和8年度税制改正法案の提出が例年より約1か月遅れる見通しとなっています。衆院選を経た特別国会の開会と第2次高市内閣の発足という政治日程の影響によるものです。
首相は年度内成立に強い意欲を示していますが、仮に成立がずれ込んだ場合、税制措置の適用関係や実務にどのような影響が生じるのでしょうか。本稿では、提出遅延の背景と論点、そして実務上の注意点を整理します。
令和8年度税制改正法案が遅れる背景
通常、税制改正関連法案は1月下旬から2月上旬に国会へ提出され、3月末までの成立を目指します。ところが今回は衆院選後の政治日程の影響により、提出が約1か月遅れる見通しとなっています。
第2次高市内閣の発足を受け、首相は予算案および税制改正法案について「年度内成立」を目指す方針を明確にしました。背景には、4月1日を施行日とする制度改正が数多く存在するという事情があります。
税制は会計年度と密接に結びついています。したがって、年度内に法案が成立するかどうかは、単なる政治日程の問題にとどまらず、制度運用そのものに直結します。
年度内成立が難しい場合の選択肢
仮に年度内成立が困難となった場合、政府は以下の対応を検討せざるを得ません。
1.暫定予算の編成
新年度当初の支出をつなぐための暫定予算が必要になります。
2.いわゆる「日切れ法案」の提出
3月末で適用期限が切れる税制措置について、一時的な延長措置を講じる必要が生じます。
税制改正大綱には、3月末で廃止・延長期限を迎える制度や、4月1日開始を前提とする制度が多数盛り込まれています。法案成立が遅れた場合、これらの適用関係に空白や混乱が生じる可能性があります。
特に法人税関係の特例措置や住宅関連税制などは、適用期限の扱いが実務に直結します。年度内成立の可否は、企業の決算・申告実務にとっても重要な意味を持ちます。
消費税ゼロ税率構想との関係
今回の政治日程の中で注目されるのが、飲食料品の消費税を2年間ゼロ税率とする構想です。
首相は、その後の給付付き税額控除への移行を見据え、超党派の国民会議で議論を進める方針を示しています。夏前の中間取りまとめ、閣議決定、法案提出というスケジュール感が語られていますが、制度設計には相当の技術的検討が必要です。
ゼロ税率を導入する場合、単なる税率変更では済みません。
- レジシステムの改修
- インボイスの記載事項
- 区分経理の変更
- 軽減税率との関係整理
など、実務上の論点は多岐にわたります。
さらに、その後に給付付き税額控除へ移行するとなれば、税制の構造そのものを組み替える議論になります。単年度改正というよりも、中期的な制度転換の入口に立っていると見るべき局面です。
税制改正の遅れが示すもの
税制は「政策の優先順位」を映す鏡でもあります。
今回の遅れは、政治的要因によるスケジュール変更ですが、同時に以下の点を私たちに問いかけています。
- 税制を年度単位で機械的に運用する仕組みの限界
- 短期的な景気対策と中長期的制度設計の整合性
- 財源確保とのバランス
税制は安定性が重要である一方、経済環境の変化には迅速な対応も求められます。その両立は容易ではありません。
結論
令和8年度税制改正法案の提出遅延は、政治日程上の問題にとどまりません。年度内成立の可否は、制度の適用関係や実務運用に直結する重要な論点です。
さらに、消費税ゼロ税率構想や給付付き税額控除への移行議論は、単なる一時的措置ではなく、税制の構造転換につながる可能性を秘めています。
今後の国会審議の行方は、単年度改正の枠を超え、日本の税制の方向性そのものを左右することになるでしょう。年度内成立の成否とあわせて、制度設計の中身を注視する必要があります。
参考
・税のしるべ「8年度税制改正法案等は例年より提出が1月ほど遅れるも年度内成立目指す」2026年2月23日
・首相記者会見発言要旨(令和8年2月)
