令和8年度税制改正大綱を読む⑪ 金融所得課税一体化とNISA政策の整合性

税理士
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金融所得課税の一体化は、長年にわたり議論されてきたテーマです。一方で、近年はNISA制度の抜本的拡充が進み、「貯蓄から投資へ」の政策メッセージが強く打ち出されています。

令和8年度税制改正では、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置が強化されました。これは金融所得課税の全面的な一体化ではありませんが、高額な分離課税所得に対する実効税率を引き上げる方向性を示しています。

金融所得課税を強化する方向と、NISAによって投資を促進する方向は矛盾しないのでしょうか。本稿では両政策の構造を整理し、その整合性を検討します。


金融所得課税一体化の目的

金融所得課税一体化の議論は、主に次の問題意識から出発しています。

  • 分離課税による実効税率の固定化
  • 高所得層における税負担の逆進的側面
  • 所得区分による税負担差の是正

現行制度では、上場株式等の配当・譲渡益は約20%の分離課税が原則です。

給与所得が最高45%の累進税率であるのに対し、金融所得は比例税率であるため、所得構成によって実効税率に差が生じます。

一体化とは、この構造を見直し、税負担の公平性を高めることを目的とするものです。


NISA政策の目的

一方、NISA制度はまったく異なる政策目的を持っています。

  • 家計金融資産の投資シフト
  • 長期・積立・分散投資の促進
  • 老後資産形成支援

NISAは一定額までの運用益を非課税とする制度であり、投資の裾野拡大を目的としたインセンティブ政策です。

新NISAの恒久化・非課税枠拡充は、「投資を促す」方向の政策です。


両者は矛盾するのか

一見すると、

  • 金融所得課税の強化
  • 投資促進のための非課税制度拡充

は矛盾しているように見えます。

しかし政策対象が異なります。

1.対象階層の違い

NISAは主として中間層・資産形成層を対象としています。

一方、今回強化された高額所得者向け措置は、数億円規模の金融所得を有する層が中心です。

したがって、政策のターゲット層は明確に分かれています。

2.投資促進と再分配の分業

NISAは「資本市場の裾野拡大」。
金融所得課税の調整は「税負担の公平性確保」。

役割分担を明確にすれば、両者は両立し得ます。


政策的な緊張関係

とはいえ、緊張関係がないわけではありません。

1.メッセージの一貫性

「投資を推奨する」と言いながら、「投資収益の税率を引き上げる」という印象を与えれば、政策メッセージが曖昧になります。

2.市場心理への影響

大幅な総合課税化や税率引上げが行われれば、投資意欲や市場環境に影響を与える可能性があります。

そのため、全面一体化ではなく「高額所得層限定の調整」という形が採られていると考えられます。


現実的な政策均衡

現状の政策構造は、次のように整理できます。

  • 少額・長期投資 → 非課税で後押し
  • 巨額金融所得 → 実効税率の調整

すなわち、「裾野は広げるが、頂点は調整する」という構図です。

今回の改正は、この均衡モデルを補強する位置付けと見ることができます。


今後の焦点

今後の議論の焦点は次の点です。

  • 分離課税税率そのものの見直しがあるか
  • NISA非課税枠のさらなる拡充があるか
  • 金融所得の損益通算範囲拡大との関係

特に、金融所得課税の調整が中間層にまで波及するかどうかが、整合性を判断する分岐点となります。


結論

金融所得課税一体化とNISA政策は、直ちに矛盾するものではありません。

政策対象を分けることで、

  • 投資の裾野拡大
  • 高額所得層への負担調整

を同時に進める設計が可能です。

もっとも、全面的な総合課税化に踏み込めば、NISA政策との緊張関係は強まります。

現段階では、「部分的一体化」と「投資促進」の並立が政策的均衡点にあります。

今後の税制改正では、この均衡がどこまで維持されるのかが重要な論点となるでしょう。


参考

・税のしるべ「連載 令和8年度税制改正大綱を読む 編集部編 第7回/個人所得課税④」2026年2月16日
・令和8年度税制改正大綱

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