令和8年度税制改正大綱では、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置が強化されました。
分離課税所得を中心とする高所得層の実効税率を引き上げる方向性は明確です。しかし、これは金融所得課税の「一体化」そのものではありません。
それでは、金融所得課税一体化は現実味を帯びてきたのでしょうか。本稿では、制度の構造、今回改正の位置づけ、今後の展望を整理します。
現行制度の構造
現在、上場株式等の配当・譲渡益は、原則として約20%(所得税15%+住民税5%)の分離課税が適用されています。
この仕組みには、次の特徴があります。
- 総合課税の累進税率の影響を受けない
- 他の所得と合算しない
- 高所得者ほど実効税率が相対的に低くなる場合がある
一方で、給与所得や事業所得は累進税率(最高45%)が適用されます。
この「分離」と「総合」の二元構造が、金融所得課税一体化の議論の出発点です。
一体化とは何を意味するのか
金融所得課税の一体化といっても、内容は複数あります。
- 金融所得を総合課税に組み込む
- 分離課税を維持しつつ税率を引き上げる
- 一定の高額所得層のみ追加課税する
- 他の所得と損益通算の範囲を拡大する
完全な総合課税化は制度的影響が大きく、市場への波及も無視できません。
そのため、段階的な調整措置が採られる可能性が高いと考えられます。
今回の改正は一体化の前段か
極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の強化は、形式上は一体化ではありません。
しかし実質的には、
- 高額な分離課税所得の実効税率を引き上げる
- 超富裕層の税率を部分的に調整する
という機能を持ちます。
これは、全面的な制度変更に踏み込まずに、税負担の逆進的な側面を緩和する手法といえます。
言い換えれば、「一体化の代替措置」とも整理できます。
政策上の制約
金融所得課税一体化が本格化しにくい理由として、次の点が挙げられます。
1.資本市場への影響
株式投資や資本市場の活性化政策との整合性が問われます。
NISA制度の拡充と同時に課税強化を進めることは、政策的整合性の観点で慎重さが求められます。
2.国際的な資本移動
高額金融所得は国際的に移動しやすいという特徴があります。
過度な税率引上げは、資本流出の議論を招く可能性があります。
3.徴税実務の複雑化
総合課税化すれば、損益通算や源泉徴収制度の再設計が必要になります。
制度改編コストも無視できません。
現実的なシナリオ
現時点で考えられる現実的な方向性は、次の三つです。
- 高額所得層への追加課税の拡充
- 分離課税税率の段階的見直し
- 一部所得のみ総合課税化
今回の改正は①の方向に該当します。
いきなり全面一体化に進むのではなく、対象を限定した調整が積み重なる可能性が高いと考えられます。
富裕層戦略への示唆
金融所得課税一体化が直ちに実現するとは言えません。
しかし、
- 実効税率の底上げ
- 高額所得層への追加措置
は既に現実化しています。
富裕層の資産管理では、
- 所得の帰属設計
- 受取時期の分散
- 法人活用の再検討
- 相続との連動設計
など、制度変更リスクを前提とした構造設計が重要になります。
結論
金融所得課税一体化は、直ちに全面実施される段階にはありません。
しかし、今回の改正は明確な方向性を示しています。
すなわち、
- 分離課税の固定化は絶対ではない
- 高額所得層への調整は今後も続き得る
ということです。
全面一体化ではなく、段階的な「部分的一体化」が進む可能性が現実的なシナリオといえるでしょう。
制度の安定性を前提とした設計から、制度変化を織り込む設計へ。
金融所得課税の議論は、すでにその転換点に近づきつつあります。
参考
・税のしるべ「連載 令和8年度税制改正大綱を読む 編集部編 第7回/個人所得課税④」2026年2月16日
・令和8年度税制改正大綱
