令和8年度税制改正大綱では、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の強化や、ふるさと納税の特例控除額への定額上限の導入など、高所得層に直接影響する改正が盛り込まれました。
いずれも「超富裕層のみ」を対象とするように見えますが、実務的には資産管理会社を活用する層や、多額の金融所得を有する層にも波及します。
本稿では、今回の改正を踏まえ、富裕層の資産管理戦略がどのように変化する可能性があるのかを整理します。
極めて高い所得への課税強化の意味
今回の改正では、いわゆる「ミニマム税」的措置の適用水準が大きく引き下げられ、税率も引き上げられました。
従来は、実質的に数十億円規模の所得者が中心でしたが、今後は数億円規模の所得水準でも影響が生じ得ます。
特に、
- 上場株式の配当・譲渡益
- 未上場株式の売却益
- ファンド収益
- 役員報酬+金融所得の組み合わせ
といった構成の所得については、実効税率が意識される局面が増えることになります。
従来の「分離課税中心であれば税率15%」という前提は、もはや絶対的な安心材料ではありません。
ふるさと納税の上限設定が示すもの
特例控除額に193万円の定額上限が設けられたことは、高所得者向けの税負担軽減手段が一つ制限されたことを意味します。
金額自体は大きく見えますが、
- 多額の寄附による税額圧縮
- 返礼品を含めた実質的な負担軽減
といった活用は一定程度抑制されます。
これは「合法的な節税メニューの選択肢が徐々に狭まる」流れの一環と位置づけることができます。
資産管理会社スキームへの影響
富裕層の資産管理では、
- 個人保有
- 資産管理会社保有
- 信託活用
といった複数の選択肢が組み合わされます。
今回の改正は直接的に法人税率を変更するものではありませんが、個人段階の最低税率的措置が強化されることで、所得の帰属主体をどこに置くかという設計の重要性が増します。
ただし、単純な「法人化=有利」という構図でもありません。
- 法人税+配当課税の二段階課税
- 留保金課税や同族会社規制
- 将来の相続税評価
まで含めた総合設計が必要になります。
金融所得課税一体化への布石か
今回の改正は、金融所得課税の全面的な一体化には踏み込んでいません。
しかし、「高額な分離課税所得の実効税率を引き上げる」という点では、実質的な調整機能を持ちます。
将来的に、
- 総合課税化の議論
- 税率見直し
- 所得階層別の調整措置
が検討される場合、今回の措置は前段階的な位置付けになる可能性もあります。
富裕層の資産管理は、制度の安定性を前提とする設計から、「制度変化を織り込む設計」へ移行する必要があります。
相続・事業承継戦略との連動
所得課税の強化は、資産移転戦略にも影響します。
例えば、
- 早期贈与の活用
- 事業承継税制の選択
- 信託による管理
など、所得税だけでなく相続税・贈与税を含めた時間軸での最適化がより重要になります。
単年度の税率比較ではなく、「生涯税負担」の視点が不可欠です。
今後の資産管理戦略の方向性
今回の改正を踏まえると、富裕層の資産管理戦略は次の方向へ進むと考えられます。
- 実効税率の可視化
- 所得のタイミング分散
- 法人・信託を含む多層構造設計
- 相続・贈与との一体管理
- 制度改正リスクの織り込み
重要なのは、単発の節税手法ではなく、制度変更に耐えうる構造を設計することです。
結論
令和8年度税制改正は、富裕層に対する急激な増税ではありません。
しかし、
- 実質的最低税率の引上げ
- ふるさと納税の上限制限
は、明確なシグナルを発しています。
すなわち、分離課税を活用した税率の固定化は今後も調整対象になり得るということです。
富裕層の資産管理は、「有利な制度を探す」段階から、「変化を前提に設計する」段階へ移行しつつあります。
今回の改正は、その転換点の一つといえるでしょう。
参考
・税のしるべ「連載 令和8年度税制改正大綱を読む 編集部編 第7回/個人所得課税④」2026年2月16日
・令和8年度税制改正大綱
