令和8年度税制改正大綱では、ふるさと納税の特例控除額に「193万円の定額上限」を設ける方針が示されました。
これまで、ふるさと納税は高所得者ほど多額の控除を受けられる仕組みとなっており、高額返礼品市場の拡大が社会的な議論を呼んできました。
今回の改正は単なる技術的な修正なのか、それとも制度の転換点なのか。本稿では制度の構造、今回改正の意味、今後の方向性を整理します。
ふるさと納税制度の基本構造
ふるさと納税は、自治体への寄附について、次の二段階で税負担を軽減する制度です。
- 所得税の寄附金控除
- 個人住民税の税額控除(特例控除)
特に大きな影響を持つのが、住民税所得割額の2割を上限とする特例控除です。
現行制度では、所得が高いほど住民税所得割額も増えるため、特例控除額も比例的に拡大します。金額ベースの定額上限は存在しませんでした。
今回の改正内容
今回の改正では、特例控除額に193万円の定額上限が設けられます。
給与収入1億円相当の人から影響が生じる水準とされています。
適用は令和9年寄附分からです。
これは制度創設以来、初めての明確な「金額上限」の導入です。
なぜ今、上限を設けるのか
1.高額返礼品市場の拡大
高所得者層をターゲットとした高額返礼品が拡大し、制度が実質的な税負担軽減策として利用されているとの指摘がありました。
制度の本来趣旨は「地域間の税収偏在の是正」と「地方創生」です。
しかし実態としては、
- 高所得者ほどメリットが大きい
- 都市部自治体の税収流出が拡大
という構図が固定化していました。
2.公平性の観点
同じ税率構造の下であっても、控除額に事実上の上限がないことは、税負担の再分配機能を弱める要因になります。
今回の改正は、累進構造の補完という側面を持ちます。
制度は転換点にあるのか
今回の改正は、制度廃止でも縮小でもありません。
ただし、方向性は明確です。
- 高額利用の抑制
- 税負担軽減機能の限定
- 制度趣旨への回帰
と整理できます。
これは、ふるさと納税を「節税商品」として扱う局面から、「政策手段」として位置づけ直す流れとも読めます。
地方財政への影響
都市部自治体では税収流出が継続しています。
一方で、寄附を集める自治体間でも競争が激化し、返礼品コストや事務コストの増大が課題となっています。
今回の改正は高所得層の寄附額の一部を抑制する可能性があり、寄附額総額に一定の影響を与える可能性があります。
ただし、制度の根幹は維持されるため、急激な縮小にはつながらないと考えられます。
今後の論点
今後想定される論点としては、
- 特例控除率(2割)の見直し
- 返礼割合規制の強化
- 地方交付税との関係整理
- 所得制限導入の可能性
などが挙げられます。
今回の定額上限は「第一段階」と見ることもできます。
結論
ふるさと納税は制度廃止に向かっているわけではありません。
しかし、「高所得者ほど有利」という構造には明確な調整が入りました。
これは、単なる技術修正ではなく、制度の性格を再定義する動きといえます。
今後は、
- 地域支援制度としての再構築か
- 税制優遇の縮小か
- 新たな再分配機能との連動か
という方向性が問われます。
今回の改正は、ふるさと納税が量的拡大の段階から、質的再設計の段階へ移行する兆しと位置付けることができるでしょう。
参考
・税のしるべ「連載 令和8年度税制改正大綱を読む 編集部編 第7回/個人所得課税④」2026年2月16日
・令和8年度税制改正大綱
