令和8年度税制改正大綱では、個人所得課税の分野で「極めて高い所得水準の人への課税強化」が明確に打ち出されました。
令和5年度改正で導入された「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」は、いわゆる超富裕層を対象とする最低税率的な仕組みですが、今回その適用水準と税率が引き上げられます。
さらに、ふるさと納税の特例控除額への定額上限の導入や、給与と年金の双方を有する高齢者の控除調整も盛り込まれました。
本稿では、これらの改正の内容と政策的意味を整理します。
極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の強化
1.制度の位置付け
この制度は、所得の大半が分離課税(15%)となる高所得者について、総合的な税負担が一定水準を下回らないようにするための措置です。
導入当初は、国の課税実績に当てはめると、追加負担が生じるのは概ね「所得30億円程度から」とされていました。
2.今回の見直し内容
今回の改正では、
- 追加負担が生じる平均的所得水準を約30億円 → 約6億円へ引下げ
- 適用税率を22.5% → 30%へ引上げ
とされました。
これにより対象者の範囲が大幅に拡大し、実質的な最低税率が引き上げられることになります。
3.分離課税のみの場合の影響
所得のすべてが分離課税(15%)である場合、
- 現行:所得約10億円から追加負担
- 改正後:所得約3億4千万円から追加負担
と、適用開始水準が大きく引き下げられます。
試算では、分離課税のみのケースで、
- 所得4億円 → 約1,050万円の追加負担
- 所得5億円 → 約2,550万円の追加負担
- 所得10億円 → 約9,980万円の追加負担
となります。
適用は令和9年分の所得税からです。
4.政策的意図
この改正は、金融所得課税の在り方や税負担の公平性を巡る議論を背景にしています。
名目上の累進税率は高くても、実際の税負担率が相対的に低い層への調整という性格がより明確になったといえます。
ふるさと納税の特例控除額に定額上限
1.現行制度の課題
ふるさと納税の特例控除は、個人住民税所得割額の2割を上限として税額控除できる仕組みです。
ただし「金額の定額上限」は存在しません。
そのため、所得が大きいほど控除額も拡大し、高額返礼品市場が拡大する一因となってきました。
2.改正内容
今回の改正では、特例控除額に193万円の定額上限が設けられます。
給与収入1億円相当の人から影響が出る水準とされています。
適用は令和9年寄附分からです。
3.制度の方向性
これは、ふるさと納税を「高所得者向けの税負担軽減策」として利用する動きに歯止めをかける意味合いがあります。
本来の制度趣旨への回帰を意識した改正といえます。
給与と年金を併せ持つ高齢者の控除調整
1.背景
公的年金等控除は、給与収入がある場合でも適用されます。
そのため、
- 給与のみの人
- 給与+年金の人
で、同じ収入水準でも税負担に差が生じる状況がありました。
さらに、令和8年4月から在職老齢年金の支給停止基準が月額51万円から65万円へ引き上げられます。
これにより「働きながら年金を受給する層」が拡大します。
2.改正内容
給与所得控除と公的年金等控除の合計額の上限を280万円とする制度が法制化されます。
適用は令和9年分の所得税からです。
3.意味合い
高齢就労の促進政策と、税制上の公平性の調整を同時に図る措置といえます。
年金制度改正と税制改正が連動する典型的な例です。
結論
今回の個人所得課税改正は、
- 超高所得層への最低税率的措置の強化
- ふるさと納税の高額利用への制限
- 高齢就労者の控除調整
という三つの柱から構成されています。
共通しているのは、「制度のすき間に生じている負担のアンバランスを是正する」という方向性です。
一方で、金融所得課税の本格的な一体化や累進構造の抜本見直しには踏み込んでいません。
あくまでピンポイント調整型の改正と整理できます。
高所得者層、富裕層ビジネス、相続対策、資産管理会社スキームなどに関与する実務家にとっては、今後の税負担設計を再点検する契機になる改正といえるでしょう。
参考
・税のしるべ「連載 令和8年度税制改正大綱を読む 編集部編 第7回/個人所得課税④」2026年2月16日
・令和8年度税制改正大綱
