令和8年度税制改正大綱を読み終えて ― 中小企業経営に問われる視座

税理士
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本シリーズでは、令和8年度税制改正大綱を、中小企業とオーナー経営者の視点から読み解いてきました。物価高対応、税負担の公平、賃上げ税制、設備投資減税、納税環境のデジタル化、そして財源問題と社会保障との関係まで、複数の論点を整理してきました。

改めて全体を振り返ると、今回の改正は単なる年度調整ではなく、日本経済の方向性を探る過渡期の改正であることが見えてきます。本稿では、その全体像を総括します。


単年度改正に見えて、構造的改正である

税制改正大綱は毎年公表されます。そのため、どうしても単年度の措置として受け止められがちです。

しかし、今回の大綱は、物価高の常態化、財政制約の強まり、デジタル化の進展という構造的変化を背景としています。単なる税率や控除の微調整ではなく、税制の役割そのものが再定義されつつあります。

特に、再分配機能の強化と成長促進策を同時に追求する姿勢は、従来よりも明確です。この両立は容易ではなく、今後数年にわたり議論が続くと考えられます。


中小企業にとっての三つの論点

シリーズを通じて見えてきた、中小企業経営にとっての重要論点は三つあります。

第一に、賃上げと人件費戦略です。税制は賃上げを後押ししますが、実際に持続可能な賃金水準をどう設計するかは経営判断です。税制は補助的な役割にとどまります。

第二に、法人と個人の税負担構造です。金融所得課税や高所得者課税の見直しは、オーナー経営者の資産管理や配当政策に影響します。法人税と個人所得税を一体で考える視点が不可欠です。

第三に、経理体制とデータ管理です。納税環境のデジタル化は、内部統制や証憑管理の高度化を求めています。税務対応は経営基盤の一部となっています。


公平と成長の緊張関係

税負担の公平を強化することは、社会的要請として理解できます。しかし、企業の投資意欲やリスクテイクを損なえば、成長力は低下します。

今回の改正は、公平と成長のバランスを模索する内容でした。税制は、どちらか一方に振り切るのではなく、調整の連続です。

中小企業経営も同様に、安定と挑戦の間でバランスを取る営みです。税制改正は、その外部環境の一部として捉える必要があります。


財源問題から逃れられない現実

物価高対策や優遇措置が示される一方で、財源問題は常に存在します。

社会保障費の増加、国債残高の累増、金利動向の変化。税制はこれらの制約のもとで設計されます。

短期的な負担軽減に注目するだけでなく、中長期的な総負担の動向を見据えることが重要です。法人税、個人所得税、社会保険料を含めた全体像で経営を考える必要があります。


税制を経営戦略の一部として捉える

税制は、単なる負担ではありません。行動を誘導する仕組みでもあります。

賃上げ税制、設備投資減税、研究開発税制などは、企業の意思決定に影響を与えます。しかし、税制が経営を決めるのではなく、経営方針の中に税制をどう組み込むかが重要です。

制度を知ることは前提条件です。その上で、自社の収益構造、資金繰り、人材戦略と照らし合わせることが求められます。


結論

令和8年度税制改正大綱は、物価高対応と成長促進、再分配機能の強化と財政制約という複数の課題が交錯する中で示されました。

中小企業にとって重要なのは、個別制度の適用可否だけではありません。税制の方向性を読み取り、自社の経営戦略にどう反映させるかです。

税制改正は毎年続きます。しかし、その背後にある構造的変化を見極めることが、持続的な経営につながります。

本シリーズが、その視座を整理する一助となれば幸いです。


参考

・自由民主党・公明党「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月公表)
・税理士界 第1457号(令和8年2月15日発行)特集「令和8年度税制改正大綱を検証」

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