介護保険改革の議論は、高齢者の負担や現役世代の保険料だけでなく、私たちの「家計」にも直接つながっています。介護費は一度発生すると長期間続くことも多く、家計に大きな影響を及ぼします。介護保険の仕組みや利用者負担割合の改正を理解すると同時に、個人としてどのように備えるかが重要です。
本稿では、介護と家計がどのように関係するのか、具体的な費用の目安、備え方、親の介護に直面したときの実践的な対応方法をまとめます。制度の改革動向をふまえ、「生活者視点」で介護と家計の現実を理解するためのガイドです。
1 介護費は家計の“第三の大支出”
人生の3大支出といえば、「教育」「住宅」「老後資金」とされてきました。しかし人生100年時代において、もう1つ無視できない支出があります。それが介護費です。
介護費は「発生するかどうか」「どれくらい続くか」が人によって大きく異なる点が特徴です。
(平均的な傾向)
- 要介護期間:平均約5年
- 要介護状態の長期化(10年に及ぶケースも)
- 在宅介護と施設介護の費用差が大きい
この「不確実性」が、介護費を捉えにくい支出にしています。
2 実際にどれくらい費用がかかるのか
介護費は個々の状況によって大きく異なりますが、代表的ケースをもとに目安を整理します。
① 在宅介護の場合
- 通所介護(デイサービス)
- 訪問介護
- 福祉用具のレンタル
- ケアプラン作成費(無料)
【1割負担の場合】
平均月額:2万〜6万円程度
【2割負担の場合】
平均月額:4万〜12万円程度
複数サービスを組み合わせると、月10万円を超えるケースもあります。
② 施設介護の場合
- 特別養護老人ホーム
- 有料老人ホーム
- 介護老人保健施設
- サービス付き高齢者向け住宅など
【費用目安】
- 公的施設:月10万〜15万円
- 民間有料ホーム:月20万〜30万円
- 入居一時金型施設:数百万円〜数千万円
施設介護では、介護費+住居費+食費が一体となるため、支出の幅が大きくなります。
3 2割負担になると家計にどれほど影響するか
今回議論されている「2割負担の対象拡大」は、介護費の家計への影響を大きく左右します。
(例)月10万円のサービス利用
- 1割負担:1万円
- 2割負担:2万円
→ 年間12万円の差
(例)月15万円のサービス利用
- 1割負担:1.5万円
- 2割負担:3万円
→ 年間18万円の差
高齢者の生活費の中で、年間10〜20万円の差は大きな影響があります。
4 介護費は「突然始まり、終わりが読めない」
介護費の最も大きな特徴は「期間の不確実性」です。
- 介護は突然始まる
- 終わりの時期は予測しづらい
- 状態によって費用が上下する
- 訪問介護中心→施設入所へと移行する場合もある
そのため、介護費は固定費と変動費の中間に位置する支出と考える必要があります。
5 親の介護は“2つの財布”で管理する
親の介護が始まると、次の2つの費用を適切に管理する必要があります。
(1)親の生活費・介護費
(2)子の家計(家族の生活費)
親が十分な預貯金を持っていれば負担は少ないですが、資産が少ない場合には子どもが一部を補うケースが多いのが実情です。
特に「共働きで親の介護をしながら子育てをする家庭」では、家計への影響が大きくなりやすいです。
6 介護費に備える3つの方法
介護費の備え方は、大きく3つに分類できます。
① 預貯金(緊急時の備え)
介護費の初期対応は、預貯金でまかなう家庭が多いです。
特に以下の場合、手元資金の確保が重要です。
- 施設入所の入居一時金
- 自宅のバリアフリー改修
- 福祉用具の購入
【目安】
介護費用として、100万〜300万円程度を緩衝資金として確保しておくと安心です。
② 年金収入(基礎的な費用)
年金は介護費の“ベース支出”を支える重要な収入です。
- 在宅介護:年金の範囲でおさまるケースも多い
- 施設介護:年金だけでは不足しやすい(赤字分を資産で補う構造)
施設介護になると赤字幅が増えるため、資産の計画的取り崩しが必要になります。
③ 介護保険(民間保険)の活用(備えとしての選択肢)
民間の介護保険は、月々の保険料を払い続ける代わりに、要介護状態になった際に給付を受ける仕組みです。
- 一時金タイプ
- 年金タイプ
- 特定疾病型の保険など
ただし、保険は「必要最低限」が原則です。
現役世代のうちから必要性を見極めて加入することが重要です。
7 家族会議の重要性
親の介護が始まる前に、家族で話し合っておくべきポイントは以下です。
- 親の希望(在宅か施設か)
- 使える公的サービスの把握
- 親の資産・年金額の確認
- 子ども世帯が負担できる範囲
- 緊急時の意思決定の担当者
介護は家族の“連携プレー”が欠かせず、事前準備の有無で負担感が大きく変わります。
8 介護費は“長期戦”で考える
介護は数カ月で終わる支出ではなく、5〜10年に及ぶ可能性のある長期支出です。そのため、資産運用とも密接に関係します。
- リスクを抑えた資産運用
- 計画的な取り崩し
- 家計の固定費見直し
- 子世帯のライフプラン設計への影響
特に家計が2世代にまたがる場合(親+子世帯)、家計管理の視点が複雑になり、専門家の助言を得るメリットが大きくなります。
結論
介護費は「いつ始まるかわからない」「どれほど続くかわからない」という不確実性が大きい支出です。しかし一定の知識と準備をしておくことで、家計への影響を最小限に抑えることができます。
介護保険改革により2割負担の対象が拡大する可能性がありますが、所得だけではなく、預貯金、年金、家族の協力体制など総合的に見て備えることが重要です。人生100年時代において、介護費は家計の大きなテーマであり、制度改革の動向をふまえながら、長期的な資金計画を立てることが求められます。
次回は、本シリーズ全体を振り返り、介護保険改革が示す日本の社会保障と家計の未来について総まとめします。
出典
- 厚生労働省:介護サービス費用調査
- 内閣府:高齢社会白書
- 日本経済新聞:介護・社会保障関連報道
- 家計調査(総務省統計局)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
