介護保険改革・社会保障改革シリーズ 第7回 介護だけでは語れない社会保障の現実―医療・年金・介護を貫く“3つの財政波”と改革の方向性―

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介護保険改革は、社会保障全体の文脈の中で理解しなければ本質が見えてきません。いま日本が直面しているのは、介護だけの問題ではなく、医療・年金・介護の三位一体で押し寄せる「社会保障の3つの財政波」です。
医療では高齢者の外来負担やOTC類似薬の見直し、年金では標準報酬月額の引き上げや在職老齢年金の調整、介護では自己負担割合の拡大──。これらは個別に見えるかもしれませんが、実はすべて同じ問題の別の側面であり、日本社会が抱える人口構造の変化がもたらす共通課題です。
本稿では、「社会保障全体の視点」を通して介護保険改革の位置づけを整理し、今後の制度改革の方向性を分かりやすく解説します。

1 社会保障の“3つの財政波”とは何か

日本の社会保障財政を圧迫しているのは次の3つの波です。

(1)医療費の波
  • 2023年度の医療費43.9兆円
  • 外来受診の増加
  • 高齢者の“複数の慢性疾患”
  • 高額医薬品の普及

高齢化と医療技術の高度化が医療費を押し上げています。

(2)年金の波
  • 老齢厚生年金の受給者増
  • 平均寿命の延伸による支給期間の長期化
  • 標準報酬月額の上限引き上げで財源確保

年金制度は人口構成の変化に最も敏感に反応する仕組みであり、制度維持のための微調整が続いています。

(3)介護の波
  • 要介護者数の増加
  • 介護期間の長期化
  • 人材不足によるコスト増

介護保険は医療と年金に次ぐ「第三の財政波」として存在感を強めています。

この3つの波が互いに影響し合い、社会保障全体の財政を圧迫しています。


2 なぜ今、社会保障改革が加速しているのか

政府が2025年以降の改革に本腰を入れている背景には、次のような事情が重なっています。

(1)2025年問題

団塊の世代が全員75歳以上となり、医療・介護の負担が同時に増加。

(2)少子化の加速

出生数が75万人を割り、現役世代の減少が予想以上のペースで進行。

(3)財政制約の強まり

国債残高はGDP比で世界最大水準。社会保障費の自然増(高齢者の増加に伴う増加分)は、毎年約6,000億円規模で財政を圧迫。

(4)企業の負担限界

社会保険料は企業側も半分負担しており、賃上げや投資の余力を奪いかねない状況。

これらの理由により、もはや先送りできない局面となり、医療・介護・年金の同時改革が始まっています。


3 介護保険改革は“全体最適”の一部

介護保険だけを見ていると、負担増の議論は冷たく映るかもしれません。しかし社会保障全体の観点からみると、次のような位置づけになります。

(1)高齢者全体の負担のバランスを調整するための施策
→ 医療・介護で一定の負担増をお願いすることで、年金・医療保険料の急増を抑制。

(2)現役世代の負担を守るための防御策
→ 若年層の可処分所得を守らなければ、労働供給が縮小し、社会保障財源そのものが弱体化。

(3)社会保障全体の持続性のための必要条件
→ 介護だけではなく、医療・年金も同時に再設計する必要がある。

介護保険の2割負担拡大は、その“ひとつのピース”に過ぎません。


4 医療保険改革でも「負担の線引き」が進む

最近の医療保険の議論も、介護保険と同じ構造を持っています。

● 外来負担1割 → 2割の対象者拡大

75歳以上の医療費でも、一定の所得がある人については2割負担が導入されました。

● OTC類似薬の上乗せ負担案

市販薬で代替可能な薬について、保険診療の負担増の案が厚労省で議論。

● 高額医療費制度の見直し

所得の高い層の上限額を引き上げ、低所得層を保護する方向。

これらはすべて、「所得・資産のある層には一定の負担を求める」という一貫した流れに沿っています。


5 年金制度改革も“負担と支え”の再設計

2025年の年金制度改革では、以下の見直しが行われました。

  • 標準報酬月額の上限が引き上げ
  • パート労働者への厚生年金適用拡大
  • 在職老齢年金制度の整理
  • 企業年金制度の改革

これらは財源確保の意味だけでなく、働く高齢者・働く女性の増加を支える“支え手の基盤づくり”という側面もあります。


6 社会保障の新たな原則:「負担能力に応じた負担」

介護保険の2割負担拡大や預貯金要件は、「負担能力に応じた公平な負担」という新しい原則の象徴です。

日本の高齢者は、所得は少なくても資産を多く持つ層が一定割合存在します。
このため「所得のみで負担割合を決める」時代から、「所得+資産」の総合判断へ移行しようとしています。

これは、介護保険だけでなく、医療・年金にも波及する流れです。


7 これからの社会保障は“地域で支える時代”へ

社会保障改革は、国だけで完結しません。今後は「地域」で支える仕組みの重要性が増します。

  • 地域包括ケアの高度化
  • 医療と介護の連携強化
  • 在宅医療・在宅介護の推進
  • ICTやAIの活用
  • 移動支援や見守り支援の地域ネットワーク

少子化で「家族介護」が限界を迎える中、地域社会がどのように高齢者を支えるかが鍵となります。


8 社会保障の未来像:全世代型の再構築

今後の改革は「高齢者対若者」という対立構造ではなく、「全世代で支え合う仕組み」を構築する方向に向かいます。

象徴的なキーワードは以下の通りです。

  • 全世代型社会保障
  • 負担能力に応じた負担
  • 多様な働き方に対応した制度
  • 地域包括ケアの深化
  • 予防重視の社会保障
  • デジタルと介護DXの導入

介護保険の改革は、この大きな流れの中に位置づけられています。


結論

介護保険の改革は、医療・年金と不可分の関係にあり、社会保障全体の再設計という大きな流れの一部です。高齢化と少子化によって社会保障の財政は圧迫され続け、もはや個別制度ごとの対症療法では追いつかない状況になっています。
その中で、介護保険の2割負担拡大や預貯金要件の導入は、「負担能力に応じた公平な負担」という新しい原則を社会全体で共有し、この原則を医療・年金にも横断的に適用するための重要なステップです。
次回は、制度改革を生活者側の視点に引き寄せ、具体的に「家計はどう備えるべきか」「介護費用をどう捉えるべきか」を深掘りします。


出典

  • 厚生労働省:医療・介護・年金関連資料
  • 内閣府:骨太の方針2025
  • 日本経済新聞:社会保障関連報道
  • 総務省統計局:人口推計

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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