介護保険制度を巡っては、2割負担の対象拡大や給付の見直しが繰り返し議論されています。背景にあるのは、高齢化の進行による給付費の増大と、現役世代の保険料負担の重さです。
一方で、負担増や給付抑制だけを前面に出した改革は、利用者や家族の生活を不安定にし、結果として医療費の増大を招く恐れもあります。
こうした中で、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)の再活用という視点は、介護保険制度改正を考える上で重要な意味を持ちます。
2割負担拡大議論の本質
介護保険の2割負担は、一定の所得がある高齢者に対して導入されていますが、対象拡大が検討されるたびに強い反発が起きています。その理由は、介護サービスが生活維持に直結する支出であり、医療以上に「削れない支出」だからです。
負担割合だけを引き上げても、必要な介護サービスの利用が抑制されれば、在宅生活が維持できなくなり、結果として入院や医療依存が進む可能性があります。これは医療費・介護費双方の増加につながり、制度全体としては非効率です。
給付見直しが抱えるジレンマ
給付内容の見直しでは、軽度者向けサービスの地域支援事業への移行や、生活援助の縮小などが議論されてきました。しかし、要介護度が上がる過程での支援が不十分になると、重度化を早める結果にもなりかねません。
介護保険制度は「自立支援」を理念としていますが、給付抑制が先行すると、その理念自体が揺らぐ危険があります。
特養・老健再活用が持つ制度的意義
特養・老健は、公的性格を持ち、報酬体系も一定の枠内で管理されています。そのため、過剰なサービス提供や不透明な請求が起こりにくい仕組みです。
これらの施設を、医療と介護の中間領域として再設計し、重度要介護者を適切に受け入れることができれば、在宅や民間施設での過度なサービス利用を抑える効果が期待できます。
結果として、2割負担の拡大や給付削減に頼らずとも、制度全体の支出を抑制する余地が生まれます。
医療費抑制との連動効果
特養・老健での医療対応を柔軟にし、訪問診療や在宅医療チームとの連携を進めることで、不要な救急搬送や長期入院を減らすことが可能になります。
介護保険制度の改革は、介護費だけで完結するものではなく、医療保険制度との連動で初めて効果を発揮します。特養・老健の再活用は、その接点を具体化する施策といえます。
結論
介護保険制度改正において、2割負担の拡大や給付見直しは避けて通れない論点です。しかし、それらを単独で進めるだけでは、制度の持続可能性は高まりません。
既存の特養・老健を再活用し、医療と介護の中間領域として位置づけ直すことは、利用者の生活を守りつつ、制度全体の適正化を図る現実的な選択肢です。
負担増と給付削減の二者択一ではなく、制度構造そのものを見直すことこそが、介護保険改革に求められているのではないでしょうか。
参考
・日本経済新聞「特養・老健の再活用を進めよ」
医師・一般社団法人みんなの健康らぼ代表理事 坪谷透(2025年12月24日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
