高齢化が急速に進む日本では、介護保険制度の持続可能性が重要なテーマになっています。介護サービスの利用者が年々増加する一方で、給付費も制度開始時の3倍以上へ膨らんでいます。これを支える保険料にも限界が見え始めており、「給付」と「負担」のバランスをどう再設計するかが避けられない課題になっています。
特に注目されるのが、サービス利用者の自己負担割合の見直しです。現在は所得に関わらず多くの人が1割負担ですが、2割負担の対象拡大がたびたび議論されながら、政治的な反発から3回にわたり先送りされてきました。厚生労働省は年末にも方向性をまとめる予定で、「4度目の正直」となるかが焦点になっています。
本稿では、負担議論が繰り返し棚上げされてきた背景と、今回の見直しが避けられない理由について整理します。
1. 高齢化に伴い膨らみ続ける介護保険の給付費
介護保険制度は2000年度に始まり、要支援・要介護認定を受けた65歳以上の高齢者が主に利用します。認定者はすでに約731万人に達し、今後も増加が見込まれています。
利用者数の増加に比例し、介護給付費も大きく膨らんできました。
2023年度の介護給付費(利用者負担除く)は 10兆8,263億円 と、制度開始時の3倍以上となっています。
給付費を支える40〜64歳の第2号保険料も上昇が続き、2025年度は1人あたり平均月6,200円(企業・公費負担分を含む)に達する見通しです。
現役世代の負担増も限界に近づきつつあることから、制度全体の見直しは避けられない状況にあります。
2. 自己負担割合の歴史と拡大論の背景
制度開始時の自己負担は一律1割でしたが、給付費の増加を受け、以下のように段階的に見直されてきました。
- 2015年:年収280万円以上 → 2割負担
- 2018年:年収340万円以上 → 3割負担
しかし現在も 利用者の9割以上が1割負担 のままです。
2割負担は4.3%、3割負担は3.8%と限定的で、負担の再分配が十分に機能しているとは言い難い状況です。
財務省は、負担能力に応じた適切な負担を求めるべきだとして「2割負担の対象拡大」を繰り返し主張しています。
3. 先送りが続いた「政治的配慮」
過去の見直し議論は、いずれも関係団体・利用者の強い反発を背景に先送りされてきました。
- 「サービス利用控えにつながる」
- 「負担能力のある高齢者には相応の負担が必要」
賛否が真っ二つに割れたことから、2022年末の審議会では決着を見送り、結論を翌年夏へ延期。その後も「年末まで」「27年度まで」と結論時期が延長され続けています。
2025年の骨太方針では「2025年末までに結論を得る」と明記され、厚生労働省は2027年度改正へ向けた方向性を今年年末にも取りまとめる予定です。
4. 今回の見直し案と財政効果
厚労省の試算によると、2割負担の基準を下記のように変えた場合、大きな財政効果が見込まれます。
【案】基準年収を280万円 → 190万円へ引き下げ
- 新たに対象となる人:約75万人
- 年間の給付費削減効果:約800億円
加えて、後期高齢者医療制度の「負担増に上限を設ける仕組み」を参考にし、
負担が急増しないよう月3,000円までに抑える案 も検討されています。
改革工程では以下の2案が示されています。
- 所得基準を単純に引き下げる案
- 基準引下げ+負担上限(月額制など)を組み合わせる案
制度の公平性と利用控えの防止、双方のバランスをどう取るかが重要な論点になります。
5. なぜ今、先送りが許されないのか
給付費・保険料ともに上昇が続き、現役世代が支えきれない構造が近づいています。
- 高齢者人口は今後も増加
- 介護職員の確保も困難
- 社会保険料の上昇は賃上げの足かせになる可能性
現役世代の負担を抑えつつ、必要なサービスを維持するには、高所得層への負担見直しが不可欠というのが政府の基本姿勢です。
これ以上の先送りは制度の信頼性を損ないかねないため、政府・与党も一定の方向性を示さざるを得ない局面に来ています。
結論
介護保険制度は、高齢化に伴う需要の増加と財源制約の狭間で、抜本的な見直しを迫られています。自己負担割合の見直し、特に「2割負担」の対象拡大は、政治的反発も強い課題ですが、現役世代の負担増や制度財政の悪化を考えると、これ以上先送りしづらい状況です。
今後は、負担能力に応じた公平な負担と、必要な介護サービスの利用控えを防ぐ配慮をどう両立させるのかが鍵になります。利用者・事業者・現役世代の三者が納得できる形での制度再設計が求められています。
出典
- 厚生労働省「介護保険事業状況報告」
- 財政制度等審議会 資料
- 日本経済新聞「社会保障 5つの論点(4)介護保険『4度目の正直』」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

