介護人材争奪戦の現実

FP
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――シリーズ「東京の人口増、その9割が高齢者だった」第3回

前回は、数字を通して東京の高齢化がどれほど急速に進んでいるかをご紹介しました。

  • 高齢化率は2065年に約3人に1人
  • 後期高齢者は36%増加
  • 要介護認定者や認知症高齢者も2割増

こうした現実を前に、次に浮かび上がる大きな問題が「介護を支える人材の不足」です。

東京を含む首都圏ではすでに「介護人材の争奪戦」が始まっています。今回はその実態を追いかけてみましょう。


東京都の試算 ― 4万7千人の不足

東京都の試算によると、2030年度には介護職員が約4万7000人不足すると言われています。これは単なる数字ではありません。
「介護が必要なのに受けられない人」が大量に出てくることを意味します。

同じように神奈川県でも2040年度に4万3000人不足すると予測されており、首都圏全体で人材が深刻に足りない状況です。


すでに始まっている「奪い合い」

不足が予測されているだけでなく、現場ではすでに「人材の奪い合い」が起きています。

国が定める介護報酬によって介護職員の給与水準はある程度決まっていますが、各自治体は独自の財源を使って上乗せの支援を行い、働き手を呼び込もうとしています。

具体的には、こんな施策があります。

  • 東京都:2024年度から「居住費支援」として、介護職員やケアマネジャーに月最大2万円の給付
  • 品川区:介護職員に月1万円を支給
  • 世田谷区・目黒区:家賃補助制度を独自に導入

こうした施策は一見すると働く人にとってありがたいものですが、同時に「自治体間の競争を激化させている」という側面もあります。


「共有地の悲劇」が起きる?

明治学院大学の和気康太教授は、この状況を「共有地の悲劇」と表現しています。

「共有地の悲劇」とは、みんなが自分の利益だけを追い求めると、最終的に全体が損をしてしまう現象のことです。

介護人材の争奪戦も同じ構図です。

  • ある自治体が人材確保のために補助を厚くする
  • 他の自治体もそれに追随する
  • 結果として自治体の財政負担が増す一方、全体の人材不足は解決しない

こうした悪循環に陥る危険性があるのです。


訪問介護の現場から見える課題

実際の介護現場、とくに「訪問介護」では人材不足が深刻です。訪問介護は自宅で生活を続けたい高齢者を支える重要なサービスですが、

  • 移動時間が長い
  • 担当件数が限られる
  • 身体介助の負担が大きい

といった理由で「きつい仕事」というイメージが根強く、採用が難しいのが現実です。

東京都はこうした背景を踏まえ、訪問介護事業者に対しては採用コストや車両・作業服の購入費用まで助成を拡大しています。それでも人手不足は解消されていません。


外国人労働者という現実的な選択肢

人材不足を補うために、外国人労働者の受け入れも進んでいます。EPA(経済連携協定)や技能実習制度、特定技能など、さまざまな仕組みを通じて外国人が介護現場で働くようになりました。

全国老人福祉施設協議会の調査によると、地方で採用した外国人介護職員が、より条件の良い都市部に流入する動きも明らかになっています。東京に外国人材が集まる一方で、地方の施設では人材確保がさらに難しくなっているのです。

和気教授は「外国人が安心して働き、地域で生活できるような環境整備を東京都は担うべきだ」と指摘しています。単に「人手」として確保するのではなく、生活者として地域に根付けるような支援が必要なのです。


生活者への影響

介護人材の不足は、私たち生活者にも直接的な影響を及ぼします。

  • 希望する施設に入れない
  • 訪問介護の回数が減らされる
  • サービスの質が下がる

こうした事態が現実に起きれば、家族の負担が一気に増してしまいます。

つまり「介護人材の争奪戦」は、単なる行政の問題ではなく、私たちの家族の生活に直結する問題なのです。


広域的な解決が必要

この課題に対しては、一つの自治体だけで解決するのは難しいでしょう。なぜなら人材は地域を超えて移動するからです。

必要なのは、広域的な連携です。

  • 区や市をまたいだ人材のシェア
  • 都と周辺県が連携した介護職員の育成プラン
  • 外国人材を受け入れる際の住居・教育・生活支援の共同整備

こうした「大きな視点」での取り組みが欠かせません。


まとめ

東京の高齢化に伴って起きている「介護人材争奪戦」の現実を見てきました。

  • 東京都では2030年度に約4万7000人が不足
  • 各自治体は月2万円の補助や家賃補助で人材確保を競い合う
  • 競争が激化すれば「共有地の悲劇」となり、全体が立ち行かなくなる
  • 外国人労働者の活用は不可避だが、定着には生活支援が必要

このままでは「介護サービスを受けられない東京」になりかねません。
今後は、自治体の枠を超えた広域的な解決策が強く求められています。

次回(第4回)は、この争奪戦の中で存在感を増している「外国人労働者」に焦点を当て、現状と課題をさらに掘り下げていきます。


📌 参考:
東京一極集中の実相(2) 人口増内訳、高齢者が9割(日本経済新聞、2025年10月1日付)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91639170Q5A930C2L83000/


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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