改正育児・介護休業法の完全施行とこれからの課題(第2回)
2025年10月に完全施行された改正育児・介護休業法。
第1回の記事では「育児と仕事の両立」を中心に見てきましたが、今後さらに深刻化するのは介護との両立問題です。
日本は少子高齢化が進み、すでに「介護は特別な出来事」ではなく「誰にでも起こり得る日常の延長」となりつつあります。今回は、介護と仕事の両立をめぐる現状と課題、そして必要な備えについて考えていきます。
「ケア就業者」は6人に1人の時代へ
パーソル総合研究所の推計によれば、2035年には1,285万人が育児や介護を担いながら働く「ケア就業者」となると見込まれています。
これは就業者全体の6人に1人に相当します。
介護を担う就業者が増える背景には、
- 平均寿命の延びと高齢人口の増加
- 共働き世帯の一般化
- 家族の形態変化(単身世帯の増加、きょうだいの減少)
といった社会構造の変化があります。
つまり、「自分には関係ない」と思っていても、ある日突然、親の介護や配偶者の看病が始まり、仕事と介護の両立を迫られる可能性は誰にでもあるのです。
育児と介護は「似て非なるもの」
育児と介護は同じ「ケア労働」ですが、性質は大きく異なります。
- 育児
・ある程度予測可能(保育園入園、学齢などの区切りが明確)
・長期的には自立に向かう - 介護
・いつ始まるか予測が難しい
・期間が長期化しやすく終わりも見えにくい
・心身の状態が日々変化する
この違いにより、介護は働く人に精神的・肉体的・経済的な負担を強くもたらします。特に「明日突然始まるかもしれない」「どれくらい続くのかわからない」という不確実性が大きな特徴です。
改正法の影響 ― 介護分野でも利用促進へ
改正育児・介護休業法では、育児だけでなく介護の両立支援も対象となっています。
- 企業は社員に対して「介護に関する制度を利用する意思があるか」を確認する義務
- 利用希望者への配慮義務
これにより、介護に直面した社員が声を上げやすくなり、休業や短時間勤務、テレワークといった制度利用がしやすくなることが期待されます。
とはいえ、利用が広がるほどに「誰が業務をフォローするのか」という課題は深刻化します。
介護両立で直面する現場のリアル
介護と仕事を両立する社員が増えると、次のような状況が現れやすくなります。
- 突発的な離席・休暇
急な通院や体調変化で仕事を途中で抜けざるを得ない。 - 長期化する負担
1年、2年と続くこともあり、業務調整が慢性的に必要になる。 - 周囲との温度差
制度を使う社員と、その分をカバーする社員との間に不満が蓄積。
育児以上に「職場のあつれき」が生じやすく、介護両立はチームの生産性やモチベーションに直結する問題です。
企業に求められる3つの工夫
介護両立のために、企業には次のような実質的な仕組みが求められます。
① フォロー社員への手当やインセンティブ
エスエス製薬が導入した「育休取得者のチームへの最大10万円支給」のように、介護で抜けた分をフォローする社員への金銭的補償は有効です。
② 人事評価への明確な反映
「フォローしても評価につながらない」という不満を防ぐため、人事考課に明文化して組み込むことが重要です。
③ 業務の効率化・外部リソースの活用
生成AIやRPAなどのデジタルツールを使い、定型業務を効率化する。
また、アウトソーシングや派遣社員の活用も、フォロー負担を個人に偏らせない工夫として必要になります。
個人ができる「備え」
制度や企業の対応だけでなく、社員一人ひとりも介護への備えをしておくことが大切です。
- 親との情報共有:介護が必要になったときの希望、利用できる介護保険サービスの確認
- 勤務先制度の把握:休業制度、短時間勤務、介護休暇などを事前に確認
- 情報の整理:かかりつけ医、ケアマネジャー、介護施設の連絡先をリスト化
「まだ先のこと」と思っていても、準備をしておくことで、いざというときの混乱を大幅に減らすことができます。
おわりに
2035年には就業者の6人に1人が介護を担う時代がやってきます。
育児と異なり予測が難しく、期間も長期化する介護は、働く人と企業の双方に大きな負担を与えます。
改正法によって制度は整いつつありますが、「制度がある」だけでは不十分です。
利用者とフォロー社員の双方が納得できる仕組み、そして介護を「特別な例外」ではなく「当たり前の可能性」として受け入れる職場文化の醸成が急務となります。
次回(第3回)は、具体的な企業事例と今後の展望を紹介し、「制度」から「文化」への転換の道筋を考えていきます。
📖 参考資料
「改正育児・介護休業法が完全施行」日本経済新聞(2025年9月28日付朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
