介護が届かない日 自宅ケアがかなわぬ未来 訪問介護の「空白地帯」が広がる構造問題

FP
ブルー ベージュ ミニマル note ブログアイキャッチ - 1

地域で暮らし続けたいという思いは、多くの高齢者に共通した願いです。介護保険制度が始まって25年が過ぎ、自宅でサービスを受けられる環境を整えることは国の大きな柱となってきました。しかし近年、訪問介護事業者の倒産が過去最多ペースで増加し、地方を中心にサービスが届かない地域が急速に広がっています。自宅ケアが当たり前ではなくなる未来が視野に入る中、何が起きているのか、どのような課題が積み重なっているのかを整理します。

訪問介護の倒産が過去最多に

介護事業者の倒産は24年度に179件と過去最多となり、そのうち約半数が訪問介護でした。訪問介護は従業員10人未満の小規模事業者が多く、地方圏ほど経営基盤が脆弱です。倒産件数は10年前の3倍と増加し、地域での事業継続が難しくなっています。

倒産を後押ししているのは、基本報酬の引き下げや物価・エネルギー価格の高止まり、人材不足といった複合要因です。訪問介護は移動コストが不可避であり、ガソリン代や消耗品費、事務コストの上昇が積み重なることで採算が急速に悪化します。都市部よりも移動距離が長く、職員確保が難しい地方ほど影響が大きくなります。

「空白地帯」の拡大が示す現実

訪問介護事業所がゼロの自治体は、わずか1年で97町村から115町村へ増加しました。32都道府県に存在し、高知、北海道、群馬、長野、岡山、熊本などで特に増えています。要介護者が事業所を選べる選択肢がなくなるだけでなく、事業者が一つもない地域では訪問介護そのものが利用できなくなります。

地域の高齢者が暮らし続けるために不可欠な「自宅へのケア」が物理的に届かなくなる状況が現実味を帯びています。デイサービスに馴染めず、訪問型でしか支援を受けられない高齢者にとっては生活そのものが成り立たなくなるリスクがあります。

なぜ訪問介護だけが特に厳しいのか

同じ介護サービスでも、施設内でサービスを提供する特定施設入居者生活介護の事業所数は10年で4割増加しています。対照的に訪問介護は数こそ微増ですが、小規模事業者の淘汰が急速に進んでいます。

訪問介護は、利用者宅へ職員が移動しサービスを提供する「分散型モデル」であることが最大の弱点です。移動時間が長く、1件あたりの利益が薄いため、物価高と人件費上昇の影響を最も受けやすい業態です。また、身体介護中心のサービスは専門性が必要である一方、報酬は相対的に伸びにくい構造があります。

高齢化が急速に進む地域ほどニーズは高いものの、担い手は減少し、コストは上昇するという「逆転現象」が起きています。

介護保険の設計思想とのズレ

介護保険制度は、民間事業者の参入を促すことで全国に介護サービス網を整備するという理念のもとで始まりました。その結果、自宅介護を支える訪問介護が全国に広がり、地域包括ケアの要として機能してきました。

しかし現在は、過度に民間頼みであるがゆえに、採算が取れない地域から事業者が撤退しています。人口減少や地理的条件によって赤字が避けられない地域では、民間の努力だけでは維持が難しい局面に入りつつあります。

高齢者の約7割が自宅でのケアを希望し、重度者であっても施設入所を検討しない人が多いという調査結果を踏まえると、訪問介護の後退は高齢者の生活設計に直結する問題です。

行政関与を高めるべき段階に入った可能性

民間の創意工夫に依存してきた訪問介護ですが、特に地方では事業継続が困難な現実が広がっています。大学研究者からは、採算が取れない地域に対して自治体がサービス提供に関与し、最低限のネットワークを維持する仕組みを整えるべきだという指摘もあります。

医療や介護を地域の中で完結させるための「地域包括ケアシステム」は、訪問介護サービスの安定供給が前提です。もしこの土台が崩れると、介護の重い人ほど在宅を維持できず、施設偏重型の構造へと逆戻りする恐れがあります。

結論

訪問介護を取り巻く環境は、倒産の増加と事業所撤退が同時に進む厳しい局面にあります。自宅介護を希望する高齢者が増える中で、サービスの空白地帯が広がることは地域包括ケアの理念そのものを揺るがします。民間任せの仕組みの限界が見えてきた今、自治体の関与や移動コストへの支援、職員確保策など、構造的な議論が不可欠です。

自宅で安心して暮らし続けられる社会を実現するためには、訪問介護が持続可能な仕組みとして再構築される必要があります。

参考

・日本経済新聞「介護が届かない日(上)自宅ケアかなわぬ未来」2025年12月11日
・厚生労働省 介護事業所調査
・東京商工リサーチ 介護事業者倒産調査


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました