介護が届かない日 生産性低迷がもたらす「地域格差」と介護サービス維持の行方

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介護現場では長い間、生産性の低迷が指摘されてきました。スタッフの賃上げ、事業者の経営体力の確保、そして利用者へのサービス継続を考えるうえでも、生産性の改善は避けて通れない課題です。近年はICTやロボット導入に対する支援が進む一方で、業態や地域によって対応の差が広がりつつあります。本稿では、記事で示された最新動向を踏まえながら、介護事業の生産性をめぐる現状と課題、そして今後の可能性を整理します。

■ 介護の生産性は製造業の半分にとどまる

経済センサスによると、2021年の「老人福祉・介護事業」の従事者1人あたり純付加価値額は313万円で、製造業(602万円)や全産業平均(599万円)の半分ほどです。
介護は雇用吸収力が高い産業ですが、従事者数が増える割に付加価値が伸びない構造が続いています。人手依存の度合いが高く、業務標準化が難しいことが背景にあります。

■ ICT導入で“7割削減”を実感する現場も

東京都世田谷区のリハビリ型デイサービスでは、ICTの積極活用を進める事業者に買収されたのを機に、請求事務の効率化が大きく進みました。
従来は管理者が月末に手作業で利用実績を入力していたものが、スタッフが日々記録するだけで完結する仕組みに変わり、1施設あたり1人の人員削減が可能になったといいます。

こうした「仕組みの転換」による効率化は、介護現場の負担軽減に直結します。一方で、こうした改革が広く浸透しているわけではありません。

■ 都市部は導入しやすいが、地方は稼働率の壁

ICT・ロボット導入は投資負担が大きく、利用者数が多い都市部の施設系事業者ほど導入しやすい傾向があります。
一方、訪問介護や地方の小規模事業者は、稼働率確保が難しく、投資回収が困難です。

業態別の生産性をみても差は明確で、

  • 介護老人保健施設:416万円
  • 通所介護・短期入所介護:265万円
  • 訪問介護:232万円

という状況です。
特に訪問介護では移動時間や個別ケアの多さが効率化を難しくしています。

■ 生産性が上がらなければ賃上げも難しい

介護報酬は公定価格であるため、事業者の収益はサービス量と効率化に左右されます。生産性が改善しなければ賃上げ余力が生まれにくく、結果として都市部でも必要な人材が集まらず撤退につながる恐れがあります。

人材不足が続く中、生産性の向上と賃上げの連動は、介護インフラの維持に直接かかわるテーマになりつつあります。

■ 大型化・連携・基準緩和という3つの選択肢

介護が届かない未来を防ぐために、いくつかの方向性が示されています。

1. M&Aによる事業の大型化

ICT投資は一定のスケールがあってこそ効果が高まります。大手の介護事業者が買収によってネットワークを広げ、業務標準化を進める動きは今後も続くとみられます。

2. 社会福祉連携推進法人の活用

複数の事業者が法人をつくり、ICT導入や研修などを共同化してコスト削減を図る制度です。規模の小さい事業者でも生産性向上に取り組みやすくなります。

3. 人員基準の緩和

特に過疎地では、業務効率化で余力が生まれても人員を減らせない現行ルールが壁となります。サービス維持のため、地域実情に応じた柔軟な基準設定を検討すべきとの指摘があります。

これらの施策は、単独ではなく組み合わせていくことで、地域格差や業態格差を埋める効果が期待されます。


結論

介護の生産性向上は、単なる業務効率化ではなく、日本社会全体の持続可能性に直結するテーマです。ICTやロボットなどの技術活用は確実に成果を上げつつありますが、業態や地域に応じた格差は依然として大きく残っています。
今後は、事業者の大型化や法人連携の強化に加え、人員基準の柔軟化など制度面の調整を組み合わせることで、介護サービスを安定的に維持する仕組みづくりが求められます。

人口減少と高齢化が一段と進む中で、生産性向上は回避不能の課題です。介護現場の働き手を守り、必要なサービスを社会に届けるためにも、構造的な改革が問われています。


参考

  • 日本経済新聞「介護が届かない日(下) 生産性低迷 製造業の半分」(2025年12月12日朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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