貸付用不動産の評価見直しは、単なる技術的修正ではありません。取得5年ルール、80%評価、通常の取引価額主義の明確化により、従来の不動産を活用した相続対策の前提が変わろうとしています。
これまで相続対策の王道とされてきた「借入による賃貸不動産取得」は、評価圧縮効果を見込んだ設計が可能でした。しかし今後は、評価差そのものに依拠する戦略は成立しにくくなります。
本稿では、制度変更を踏まえ、今後の相続対策の方向性を整理します。
評価差依存型スキームの終焉
従来の対策の核心は、市場価格と通達評価額の差にありました。
・借入金控除による純資産圧縮
・貸家建付地評価による減額
・小口化商品の評価差
これらは通達評価の枠内で合法的に行われてきました。
しかし取得直後の物件や小口化商品について「通常の取引価額」評価が導入されれば、短期的な評価圧縮効果は限定されます。
今後は、形式的評価差を利用する設計は持続性を失うと考えられます。
本質は「資産の中身」
制度変更後に重要となるのは、資産の実質的価値です。
・安定した収益性
・長期保有の合理性
・市場流動性
・価格形成の透明性
評価が市場価格に近づくのであれば、対策の焦点は「評価差」から「実質的価値」へ移ります。
不動産を取得するのであれば、節税効果ではなく、事業性・収益性・資産保全性を重視する設計が必要になります。
保有期間戦略の再構築
取得5年ルールが導入されることで、保有期間の意味が変わります。
短期取得・短期承継型の設計は抑制される可能性があります。一方で、長期保有を前提とする不動産戦略は引き続き選択肢となります。
もっとも、5年超保有すれば必ず安全というわけではありません。
評価制度は今後も変動し得ます。時間基準に依存した戦略は慎重であるべきです。
重要なのは、制度変更に耐え得る資産構成を構築することです。
金融資産とのバランス
不動産偏重型の相続対策は再検討が必要になります。
金融資産は原則として時価評価であり、評価差は生じにくい資産です。しかし流動性が高く、承継設計が柔軟です。
不動産と金融資産のバランスをどう組むかが、今後の重要な論点となります。
単一資産への集中は、制度変更リスクを高めます。分散の視点がこれまで以上に重要になります。
法人化・信託の位置付け
評価見直しは、個人名義取得を前提とする対策に影響を与えます。
その結果、
・法人保有
・民事信託
・家族信託
・持株会社活用
といった構造的設計が再評価される可能性があります。
もっとも、これらも万能ではありません。税制は全体として整合的に設計されます。
単なる形式変更ではなく、事業承継・経営承継との一体設計が求められます。
納税資金対策の重要性
評価が市場価格に近づけば、相続税負担は増加する可能性があります。
その結果、納税資金の確保がより重要になります。
・生命保険の活用
・分割納税制度の理解
・流動性資産の確保
・資産売却計画の事前設計
相続対策は税額圧縮だけではありません。納税可能性の確保が中心課題となります。
争いを前提としない設計
評価制度の変動期には、解釈を巡る争いが増えます。
しかし、相続は家族にとって大きな負担となる局面です。評価争いを前提とした設計は望ましくありません。
・説明可能な取得価格
・透明性のある取引構造
・合理的な資産構成
を重視することが重要です。
制度の趣旨に沿った設計は、長期的に安定します。
対策の軸は「理念」へ
今回の見直しは、相続税評価を市場価格との整合性に近づける動きです。
これにより、相続対策の軸は次の三点に集約されます。
・資産の実質的価値
・承継の持続可能性
・納税資金の確保
評価差という技術論から、資産承継の本質へと視点を移すことが求められます。
結論
貸付用不動産評価の見直しは、従来型の相続対策に再考を促すものです。
短期的な評価差に依拠する設計は成立しにくくなります。今後は、資産の実質的価値と承継の合理性を重視した構造的設計が重要になります。
税制は変わります。しかし、資産承継の基本は変わりません。
制度変更を恐れるのではなく、本質に立ち返ることが、これからの相続対策の出発点になります。
参考
・2026年02月09日 税のしるべ 連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第78回/貸付用不動産の評価
・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
