事業承継を考えるとき、多くの経営者は「後継者はいるか」「税金はいくらかかるのか」「制度は使えるのか」といった個別の論点から検討を始めます。
しかし、これらを個別に考えている限り、全体像は見えにくく、判断が遅れたり、選択肢を誤ったりするリスクが高まります。
本ガイドでは、これまで整理してきた
- 事業承継とM&A
- 事業承継と税務
- 事業承継をめぐる税制改正
という三つの視点を横断し、どのように一体として考えるべきかを整理します。
事業承継は「一つの問題」ではない
事業承継は、人の問題、経営の問題、税務の問題、制度の問題が複雑に絡み合った経営判断です。
後継者の有無だけで判断すれば、税務面で無理が生じることがあります。税制優遇だけを重視すれば、将来の経営の自由度を失うこともあります。
重要なのは、どれか一つを優先するのではなく、複数の要素を同時に見渡すことです。
M&Aは「特別な手段」ではなく常備戦略
M&Aは、大企業だけのものでも、非常時の最終手段でもありません。
親族承継や社内承継が難しい場合の現実的な選択肢であり、同時に中小企業の成長戦略にもなり得ます。
M&Aを検討するかどうかにかかわらず、常に選択肢として頭に置いておくこと自体が、事業承継リスクへの備えになります。
税務は「目的」ではなく「制約条件」
税務は、事業承継の成否を左右する重要な要素ですが、目的ではありません。
相続・贈与・M&Aのいずれを選んでも税負担は発生します。重要なのは、税金をゼロにすることではなく、どの程度の負担であれば経営や人生設計に耐えられるのかを把握することです。
税務を制約条件として整理することで、感情論ではなく現実的な判断が可能になります。
税制改正は「前提条件」として読む
事業承継に関する税制は、今後も見直しが続くことが前提です。
そのたびに一喜一憂するのではなく、「なぜその改正が行われたのか」「国はどの行動を促そうとしているのか」という構造を読むことが重要です。
制度は変わるものとして受け止め、その変化に耐えられる承継計画を描くことが、結果として安定した判断につながります。
三つの視点をどう統合するか
事業承継を考える際には、次の順序で整理すると全体像が見えやすくなります。
まず、会社をどう残したいのか、経営者自身はどう引退したいのかという意思決定を明確にします。
次に、その意思決定を実現する手段として、親族承継、社内承継、M&Aを並列に検討します。
最後に、それぞれの選択肢について税務や制度の影響を確認し、現実的な制約を織り込んで判断します。
結論
事業承継は、制度や税制に答えを求める問題ではありません。
経営、人生、会社の将来をどうつなぐかという意思決定を起点に、M&A、税務、税制改正を道具として使いこなすことが重要です。
制度に振り回されるのではなく、制度を理解したうえで主体的に選択する。その姿勢こそが、これからの中小企業にとっての「失敗しない事業承継」の土台になります。
参考
・日本経済新聞「M&Aは特別な手段ではない」PwCコンサルティング パートナー 久木田光明(2025年12月16日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
