事業承継を考えるとき、多くの経営者は自社株式や後継者の育成に意識を向けます。しかし、海外資産を保有している場合、その整理は承継設計の重要な論点になります。
国際的な情報交換と徴収共助制度が機能する現在、海外資産は「見えにくい資産」ではありません。承継の前に整理しておくべき事項を確認します。
なぜ海外資産が承継で問題になるのか
1 相続税の課税対象となる
日本居住者が亡くなった場合、原則として全世界財産が相続税の対象となります。海外口座、海外証券、海外不動産、海外法人持分も例外ではありません。
申告漏れがあれば、後日指摘される可能性があります。
2 情報は共有される
CRSにより海外金融口座情報は自動的に提供されます。被相続人名義の海外口座は把握され得る前提で考える必要があります。
3 相続後の徴収リスク
相続税が確定し、納付が滞った場合には徴収共助制度が関係する可能性があります。相続人が海外在住であっても、条約があれば影響を受けます。
承継前に整理すべき海外資産の種類
実務上、承継で問題になりやすい資産は次のとおりです。
- 海外銀行口座
- 海外証券口座
- 海外不動産
- 海外法人持分
- オフショア保険商品
- 名義が家族や第三者になっている資産
重要なのは、名義・所在地・評価額・取得経緯を明確にすることです。
典型的なトラブル事例
1 相続人が存在を把握していない
被相続人が家族に知らせていない海外口座が、後日情報交換により判明するケースがあります。
結果として修正申告や加算税の問題に発展します。
2 海外法人の実質帰属が曖昧
オーナーが実質的に支配していた海外法人が、形式的には他者名義となっている場合、評価や帰属の問題が生じます。
承継時の整理が不十分だと、相続税評価や所得税問題に波及します。
3 評価方法が不明確
海外未上場法人の持分評価や海外不動産の評価は、日本国内資産よりも手続が煩雑です。資料不足は後の紛争要因になります。
承継設計における実務対応
1 海外資産の棚卸し
承継対策の第一歩は、海外資産を一覧化することです。
- 所在国
- 名義
- 種類
- 残高・評価額
- 税務上の論点
を整理します。
2 国外財産調書の確認
国外財産調書の提出対象となる場合、提出状況を確認します。未提出や記載不備があれば、是正を検討します。
3 名義と実質の一致
形式と実態が一致しているかを確認します。実質支配者が明確でない資産は、承継前に整理する方が安全です。
4 承継スキームとの整合性
自社株の承継スキームと海外資産の扱いを分離して考えないことが重要です。
例えば、
- 海外法人が自社株を保有している
- 海外資産が納税資金に充てられる予定である
といった場合、全体設計が必要になります。
徴収共助を踏まえた視点
相続税や贈与税が確定し納付が滞った場合、海外資産が徴収対象となる可能性があります。
承継設計では、
- 納税資金の確保
- 分割協議の透明性
- 相続人間の情報共有
を重視します。
海外資産を「最後の資金源」として曖昧に扱うことは避けるべきです。
経営承継との関係
中小企業オーナーにとって、事業承継は経営の継続を意味します。
海外資産の不透明さは、
- 金融機関との関係
- M&A時のデューデリジェンス
- 企業価値評価
にも影響します。
透明性は企業の信頼性に直結します。
結論
海外資産は承継リスクではありません。
問題となるのは、把握不足と整理不足です。
事業承継の準備段階で、
- 海外資産を一覧化する
- 税務上の帰属を明確にする
- 納税資金計画を立てる
ことが重要です。
国際的な情報交換と徴収共助制度が機能する時代においては、海外資産も国内資産と同様に透明性を前提として管理する必要があります。
承継は経営の終わりではなく、次世代への橋渡しです。その橋を安定させるために、海外資産の整理は避けて通れない論点となっています。
参考
税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
