M&Aは事業承継のための「出口戦略」として語られることが多い一方で、中小企業の成長戦略としての側面は十分に認識されていない傾向があります。
しかし、経営環境の変化が激しい現在においては、事業を引き継ぐためだけでなく、事業を伸ばすための手段としてM&Aを捉える視点が重要になっています。
内部成長だけでは時間が足りない
中小企業の多くは、これまで人材育成や設備投資を通じた内部成長によって事業を拡大してきました。このオーガニックな成長モデルは、安定性の面では有効ですが、時間がかかるという弱点があります。
人材不足や技術革新のスピードが速まる中で、内部成長だけに依存すると、市場環境の変化に追いつけないリスクが高まります。成長機会そのものを逃してしまうケースも少なくありません。
M&Aは「経営資源を買う」手段
成長戦略としてのM&Aの本質は、会社そのものを買うことではなく、経営資源を獲得することにあります。
人材、技術、ノウハウ、顧客基盤、販路といった要素を一体として取り込むことで、自社だけでは時間をかけても到達できなかった領域に短期間で進出することが可能になります。
これは大企業に限った話ではなく、中小企業にとっても十分に現実的な戦略です。
同業・周辺業種との統合
中小企業における成長型M&Aでは、同業や周辺業種との統合が比較的取り組みやすい形態といえます。
同じ業界内でのM&Aは、事業内容の理解がしやすく、統合後の運営も比較的スムーズに進みやすい傾向があります。また、周辺業種との統合によって、サービスの幅を広げたり、付加価値を高めたりすることも可能です。
競争環境が厳しくなる中で、単独で戦うのではなく、規模や機能を補完し合う発想が重要になります。
中小企業だからこそ柔軟に動ける
中小企業は意思決定のスピードが速く、現場との距離が近いという強みがあります。これは、M&Aを成長戦略として活用するうえで大きな利点です。
買収後の統合や意思疎通が円滑に進めば、想定以上の相乗効果が生まれる可能性もあります。大規模な再編よりも、小回りの利くM&Aの方が実効性を持つ場面も多く見られます。
結論
M&Aは事業承継のための選択肢にとどまらず、中小企業の成長戦略としても有効な手段です。
内部成長と外部成長を対立させるのではなく、両者を組み合わせながら、自社にとって最適な成長の形を描くことが求められます。M&Aを現実的な経営戦略の一つとして捉えることで、中小企業の可能性は大きく広がります。
参考
・日本経済新聞「M&Aは特別な手段ではない」PwCコンサルティング パートナー 久木田光明(2025年12月16日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
