◆ 「ためる経営」から「回す経営」へ
このシリーズを通して一貫してお伝えしてきたこと――
それは、「お金はためるものではなく、回すもの」という考え方です。
内部留保は悪ではありません。
むしろ、経営努力の成果として積み上げられた「企業の体力」です。
しかし、そのお金が動かないまま眠っているなら、
会社は「筋肉質」ではなく「むくみ体質」になっていきます。
金融庁がコーポレートガバナンス改革で求めているのも、
まさにこの「お金を動かす力」。
それは上場企業だけでなく、すべての企業に共通するテーマです。
◆ お金を“ためる”から“循環させる”構造へ
お金を「使う」ことと「減らす」ことは違います。
健全な企業は、資金を以下のサイクルで循環させています。
【資金循環の基本構造】
利益 → 内部留保 → 投資(設備・人材・DX)
→ 生産性向上 → 売上増加 → 利益拡大 → (再び内部留保へ)
この循環が止まると、
社員の成長も、取引先との関係も、企業価値も鈍化します。
逆に、内部留保を「未来投資の燃料」として動かせば、
キャッシュが“会社を回すエンジン”になります。
◆ キャッシュを動かす3つの原則
① 「安全資金」と「成長資金」を明確に分ける
手元資金のうち、月商2〜3か月分は“守りの資金”。
それを超える分は“攻めの資金”として投資・借入返済・社員還元に回す。
② 投資は「回収可能性 × 波及効果」で判断する
数字に表れない「社員の成長」や「顧客満足の向上」も、
長期的には企業価値を押し上げる立派なリターンです。
③ キャッシュの流れを月次で“見える化”する
資金繰り表やキャッシュフロー計画を常に最新化し、
数字を「点」ではなく「線」で管理する。
◆ 「攻めの内部留保」は未来をつくる
内部留保は、次の投資を生む“貯水池”です。
たとえば以下のような使い方が、中小企業の成長を後押しします。
- DX・AI導入による業務効率化
- 若手社員への教育・採用強化
- サブスクリプション型収益への転換
- 地域共創・異業種連携への参入
いずれも、「お金を使って終わり」ではなく、
“お金が働く仕組み”をつくる投資です。
◆ 「数字で未来を描く経営」へのシフト
お金を回す経営には、“数字を見る力”が不可欠です。
利益・キャッシュ・税金・借入――これらを統合して見ることで、
感覚的な判断から、設計された意思決定へと変わります。
| 従来の経営 | 資金循環型経営 |
|---|---|
| 利益重視で資金は結果 | キャッシュ中心で利益を設計 |
| 投資は勘とタイミング | 投資はシミュレーションで判断 |
| 納税で資金が減る | 納税を含めたキャッシュ設計 |
| 銀行は頼る存在 | 銀行は共に成長を描くパートナー |
経営の「見える化」は、会社の未来を“数字で語れる力”に変わります。
◆ 税理士・FPからのメッセージ
これからの中小企業に求められるのは、
「お金を持っている会社」ではなく、
「お金を回せる会社」です。
資金をため込むのではなく、
投資・人材・DX・地域との共創へと動かす。
それが、企業の成長と社会の活性化を両立させる“次の経営”です。
◆ 最後に ― キャッシュは企業の「血流」
キャッシュは企業の血流です。
滞れば組織は弱り、流れれば全身が活性化します。
内部留保は「血液」そのものではなく、
流す力を育てる心臓のような存在。
経営者が数字を見つめ、意思を持ってお金を動かす――
その積み重ねこそが、会社の未来を支えます。
📘 出典・参考
中小企業庁『キャッシュフロー経営ハンドブック』
日本政策金融公庫『成長投資と資金循環の実践事例』
2025年10月22日 日本経済新聞「企業現預金100兆円にメス」
💡 シリーズまとめ:中小企業のキャッシュマネジメント実践ガイド(全7回)
1️⃣ 内部留保を眠らせない経営へ
2️⃣ 手元資金はいくらが最適か
3️⃣ 投資判断の仕組みをつくる
4️⃣ キャッシュフロー経営の実践
5️⃣ 金融機関との付き合い方改革
6️⃣ 利益よりキャッシュ ― 資金三面経営
7️⃣ お金が“会社を回す”仕組み(本記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
