中小企業のキャッシュマネジメント実践ガイド⑥利益よりキャッシュ ― 税金・投資・借入を見通す“資金三面経営”

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◆ 「黒字なのにお金がない」から抜け出すために

中小企業の相談で最も多い悩みのひとつが、
「黒字なのにお金が足りない」という現象です。

原因は、利益・キャッシュ・税金をバラバラに見ていること。
決算書の「利益」は会計上の数字であり、
実際に動く現金(キャッシュ)とは必ずしも一致しません。

つまり――
損益の経営(利益)だけでは会社は守れず、
キャッシュの経営(資金繰り)だけでは成長できない。

この両方をつなぐのが、「資金三面経営」の考え方です。


◆ “資金三面経営”とは何か

資金三面経営とは、
会社の数字を 「損益・資金・税務」 の3つの視点で同時に管理する経営手法です。

視点目的主なチェックポイント
① 損益の視点利益を出す売上・原価・利益率・経費構造
② 資金の視点お金を残すキャッシュフロー・運転資金・投資余力
③ 税務の視点税負担をコントロールする納税資金の準備・節税のタイミング

3つの視点を「同じ表」で見える化することで、
“利益が出てもキャッシュが減らない”経営を実現できます。


◆ 損益とキャッシュのズレを理解する

まず押さえておきたいのは、
「利益」と「キャッシュ」は一致しないということ。

たとえば:

項目損益計算上現金の動き
売掛金の売上利益に計上される入金は後日
減価償却費費用に計上される現金支出はなし
借入金の返済損益に影響しない現金は減る
設備投資資産に計上現金は出る

つまり、利益=現金ではない。
この構造を理解しないと、
「利益が出ているのに資金が減っている」理由が見えません。


◆ 税金の視点を忘れると「キャッシュ不足」になる

さらに、忘れがちなのが税金の支払いタイミングです。

黒字を出すと法人税・消費税・社会保険料が増え、
翌期に一気に資金流出が発生します。

そのためには:

  • 決算前に税引後キャッシュフローをシミュレーション
  • 「納税資金積立口座」を分けて管理
  • 投資や賞与支給は納税後の残高を見て判断

税金は「利益の結果」ではなく、「キャッシュの計画」に組み込む。
これが資金三面経営の基本です。


◆ 三つの数字をつなぐ「資金三面表」の作り方(簡易版)

項目金額(万円)コメント
当期純利益500損益計算書から
減価償却費+100キャッシュ増加要因
設備投資−200キャッシュ減少要因
借入返済−150損益に影響しないが現金減
法人税・住民税−120翌期支払いを想定
期末キャッシュ増減+130実際に残るお金

このように損益と資金を橋渡しすることで、
「利益が出てもお金が足りない」状態を予測・回避できます。


◆ 税理士・FPが実践する“資金三面経営”3ステップ

  1. 決算数値をキャッシュフローに変換する
     減価償却・借入・投資・税金など、非現金項目を整理。
  2. 翌期の資金計画と税金見込みを同時に作る
     投資・借入・納税の3要素を一枚の表で管理。
  3. 月次で利益・資金・税金を同時チェック
     「利益は出たが現金が減った」「節税したが投資が遅れた」などのズレを早期発見。

これにより、「利益・キャッシュ・税金」をワンセットで考える経営が可能になります。


◆ 経営判断が変わる!「資金三面経営」の効果

BeforeAfter
利益重視で節税に走るキャッシュ残高を見て最適化
投資判断が感覚的キャッシュフロー基準で可視化
納税時に慌てる年間計画で納税資金を確保
銀行交渉に不安数字で説明でき信頼が増す

資金三面経営を取り入れると、
経営が「感覚」から「設計」へ変わります。


◆ 結び ― 「利益よりキャッシュ」で会社は強くなる

経営は利益を競うものではなく、キャッシュを循環させる仕組みづくりです。
利益は“結果”、キャッシュは“現実”。
そして税金は“その間をつなぐルール”です。

この3つを同時に見通す「資金三面経営」を実践することで、
中小企業は不況にも強く、投資にも前向きな「持続成長型企業」へと進化します。


📘 出典・参考
中小企業庁『キャッシュフロー経営ハンドブック』
日本政策金融公庫『資金管理と納税計画の基礎知識』
2025年10月22日 日本経済新聞「企業現預金100兆円にメス」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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