◆ 「黒字なのにお金がない」から抜け出すために
中小企業の相談で最も多い悩みのひとつが、
「黒字なのにお金が足りない」という現象です。
原因は、利益・キャッシュ・税金をバラバラに見ていること。
決算書の「利益」は会計上の数字であり、
実際に動く現金(キャッシュ)とは必ずしも一致しません。
つまり――
損益の経営(利益)だけでは会社は守れず、
キャッシュの経営(資金繰り)だけでは成長できない。
この両方をつなぐのが、「資金三面経営」の考え方です。
◆ “資金三面経営”とは何か
資金三面経営とは、
会社の数字を 「損益・資金・税務」 の3つの視点で同時に管理する経営手法です。
| 視点 | 目的 | 主なチェックポイント |
|---|---|---|
| ① 損益の視点 | 利益を出す | 売上・原価・利益率・経費構造 |
| ② 資金の視点 | お金を残す | キャッシュフロー・運転資金・投資余力 |
| ③ 税務の視点 | 税負担をコントロールする | 納税資金の準備・節税のタイミング |
3つの視点を「同じ表」で見える化することで、
“利益が出てもキャッシュが減らない”経営を実現できます。
◆ 損益とキャッシュのズレを理解する
まず押さえておきたいのは、
「利益」と「キャッシュ」は一致しないということ。
たとえば:
| 項目 | 損益計算上 | 現金の動き |
|---|---|---|
| 売掛金の売上 | 利益に計上される | 入金は後日 |
| 減価償却費 | 費用に計上される | 現金支出はなし |
| 借入金の返済 | 損益に影響しない | 現金は減る |
| 設備投資 | 資産に計上 | 現金は出る |
つまり、利益=現金ではない。
この構造を理解しないと、
「利益が出ているのに資金が減っている」理由が見えません。
◆ 税金の視点を忘れると「キャッシュ不足」になる
さらに、忘れがちなのが税金の支払いタイミングです。
黒字を出すと法人税・消費税・社会保険料が増え、
翌期に一気に資金流出が発生します。
そのためには:
- 決算前に税引後キャッシュフローをシミュレーション
- 「納税資金積立口座」を分けて管理
- 投資や賞与支給は納税後の残高を見て判断
税金は「利益の結果」ではなく、「キャッシュの計画」に組み込む。
これが資金三面経営の基本です。
◆ 三つの数字をつなぐ「資金三面表」の作り方(簡易版)
| 項目 | 金額(万円) | コメント |
|---|---|---|
| 当期純利益 | 500 | 損益計算書から |
| 減価償却費 | +100 | キャッシュ増加要因 |
| 設備投資 | −200 | キャッシュ減少要因 |
| 借入返済 | −150 | 損益に影響しないが現金減 |
| 法人税・住民税 | −120 | 翌期支払いを想定 |
| 期末キャッシュ増減 | +130 | 実際に残るお金 |
このように損益と資金を橋渡しすることで、
「利益が出てもお金が足りない」状態を予測・回避できます。
◆ 税理士・FPが実践する“資金三面経営”3ステップ
- 決算数値をキャッシュフローに変換する
減価償却・借入・投資・税金など、非現金項目を整理。 - 翌期の資金計画と税金見込みを同時に作る
投資・借入・納税の3要素を一枚の表で管理。 - 月次で利益・資金・税金を同時チェック
「利益は出たが現金が減った」「節税したが投資が遅れた」などのズレを早期発見。
これにより、「利益・キャッシュ・税金」をワンセットで考える経営が可能になります。
◆ 経営判断が変わる!「資金三面経営」の効果
| Before | After |
|---|---|
| 利益重視で節税に走る | キャッシュ残高を見て最適化 |
| 投資判断が感覚的 | キャッシュフロー基準で可視化 |
| 納税時に慌てる | 年間計画で納税資金を確保 |
| 銀行交渉に不安 | 数字で説明でき信頼が増す |
資金三面経営を取り入れると、
経営が「感覚」から「設計」へ変わります。
◆ 結び ― 「利益よりキャッシュ」で会社は強くなる
経営は利益を競うものではなく、キャッシュを循環させる仕組みづくりです。
利益は“結果”、キャッシュは“現実”。
そして税金は“その間をつなぐルール”です。
この3つを同時に見通す「資金三面経営」を実践することで、
中小企業は不況にも強く、投資にも前向きな「持続成長型企業」へと進化します。
📘 出典・参考
中小企業庁『キャッシュフロー経営ハンドブック』
日本政策金融公庫『資金管理と納税計画の基礎知識』
2025年10月22日 日本経済新聞「企業現預金100兆円にメス」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
