中小企業のキャッシュマネジメント実践ガイド⑤金融機関との付き合い方改革 ― 借入を“守り”ではなく“攻め”に変える

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◆ 借入を「悪」と考える時代は終わった

「できるだけ借金はしたくない」
「借入は最小限にしておきたい」

――そう考える経営者は今も多いでしょう。
しかし、金利が依然として低水準にある今、借入は“リスク”ではなく“選択肢”です。

金融庁の企業統治改革でも明確に打ち出されているように、
今の時代に求められるのは「資金をどう動かすか」。
現預金を眠らせず、外部資金を戦略的に使う経営が、
企業の成長を左右するカギになっています。


◆ 「借りる力」=「信用を可視化する力」

銀行が見ているのは、「返済能力」ではなく「信頼能力」です。
つまり、貸したお金がどう使われ、どんな成果を生むのかを説明できるか。

ここで重要なのが次の3点です。

銀行が重視する要素経営者が示すべきポイント
① 資金の使い道投資・運転資金・人材育成など明確に説明できるか
② 資金繰り計画3~6か月先までのキャッシュ見通しを提示できるか
③ 経営方針・事業計画「なぜ今、この投資なのか」を言語化できるか

この3点を数字とストーリーで語れる経営者こそ、
金融機関から信頼される「借りられる経営者」です。


◆ “借りやすい企業”と“借りにくい企業”の違い

借りやすい企業借りにくい企業
月次試算表・資金繰り表が整備されている決算書提出だけで経営数字が不明確
事業計画・資金使途が説明できる「とりあえず資金が欲しい」状態
税理士・会計士と定期面談している数字の相談相手がいない
社長自身が資金管理を理解している資金繰りを経理任せにしている

ポイントは、“規模”ではなく“整備度”です。
数字を整理し、資金計画を提示できる企業ほど、銀行からの評価は高くなります。


◆ 融資を「守り」から「攻め」に変える3つの活用法

① 設備投資・DX投資の先行実施

金利負担が低いうちに、業務効率化・デジタル化への先行投資を行う。
AI会計・クラウド導入・新拠点準備など、未来の生産性を高める支出に活用。

② 借換・条件変更でコスト削減

複数の融資を一本化(借換)することで、金利引下げ+返済期間延長が可能に。
これにより、毎月の資金繰りが大幅に改善するケースもあります。

③ 「信用保証協会」付き融資の見直し

保証付き融資は安全ですが、保証料負担が重い。
一定の実績を積んだ企業は、プロパー融資(保証なし)への切り替えを検討。
金融機関の信頼を高める絶好のチャンスになります。


◆ 銀行と“味方関係”を築くための習慣

  1. 年2回の「報告訪問」を欠かさない
     決算報告だけでなく、中間期にも自社の現況を伝える。
  2. “悪い情報ほど早く伝える”
     資金ショートや赤字見通しは、早めに共有すれば信頼は落ちません。
  3. 事業計画書を持参して相談する
     単なる融資申込ではなく、「成長の相談」として関係を築く。

銀行員は「報告が早い・説明が丁寧・計画がある」企業を最も信頼します。
融資とは交渉ではなく、共創のプロセスなのです。


◆ 補助金・助成金と融資を組み合わせる

資金調達の“攻めの設計”として、
「補助金+融資」をセットで考えるのも有効です。

例:IT導入補助金で導入コストの半額を補助 → 残りを低利融資でカバー
この組み合わせにより、自己資金負担を抑えつつ、成長投資を早期実行できます。

税理士や商工会議所、認定支援機関と連携すれば、
補助金採択率や融資審査の通過率が大幅に上がります。


◆ 「借入余力」は経営の安全装置

多くの中小企業は、「借りられないこと」よりも「借りすぎること」を心配します。
しかし、“借入余力を持つこと”こそ最大の防御です。

銀行との信頼を積み上げておけば、
いざというときに「素早く資金を動かせる」。
この“スピード対応力”が、経営危機を救うことになります。


◆ 結び ― 借金ではなく「資本のレバレッジ」

金融機関との付き合い方改革とは、
借入を“最後の手段”ではなく、“経営の推進力”として捉えること。

借りるとは、「未来へのレバレッジ(てこ)」をかける行為です。
資金を守る経営から、資金を動かす経営へ。
それが、次の時代を生き抜く中小企業の新常識です。


📘 出典・参考
中小企業庁『金融機関との上手な付き合い方』
日本政策金融公庫『融資のポイントと評価基準』
2025年10月22日 日本経済新聞「企業現預金100兆円にメス」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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