◆ 借入を「悪」と考える時代は終わった
「できるだけ借金はしたくない」
「借入は最小限にしておきたい」
――そう考える経営者は今も多いでしょう。
しかし、金利が依然として低水準にある今、借入は“リスク”ではなく“選択肢”です。
金融庁の企業統治改革でも明確に打ち出されているように、
今の時代に求められるのは「資金をどう動かすか」。
現預金を眠らせず、外部資金を戦略的に使う経営が、
企業の成長を左右するカギになっています。
◆ 「借りる力」=「信用を可視化する力」
銀行が見ているのは、「返済能力」ではなく「信頼能力」です。
つまり、貸したお金がどう使われ、どんな成果を生むのかを説明できるか。
ここで重要なのが次の3点です。
| 銀行が重視する要素 | 経営者が示すべきポイント |
|---|---|
| ① 資金の使い道 | 投資・運転資金・人材育成など明確に説明できるか |
| ② 資金繰り計画 | 3~6か月先までのキャッシュ見通しを提示できるか |
| ③ 経営方針・事業計画 | 「なぜ今、この投資なのか」を言語化できるか |
この3点を数字とストーリーで語れる経営者こそ、
金融機関から信頼される「借りられる経営者」です。
◆ “借りやすい企業”と“借りにくい企業”の違い
| 借りやすい企業 | 借りにくい企業 |
|---|---|
| 月次試算表・資金繰り表が整備されている | 決算書提出だけで経営数字が不明確 |
| 事業計画・資金使途が説明できる | 「とりあえず資金が欲しい」状態 |
| 税理士・会計士と定期面談している | 数字の相談相手がいない |
| 社長自身が資金管理を理解している | 資金繰りを経理任せにしている |
ポイントは、“規模”ではなく“整備度”です。
数字を整理し、資金計画を提示できる企業ほど、銀行からの評価は高くなります。
◆ 融資を「守り」から「攻め」に変える3つの活用法
① 設備投資・DX投資の先行実施
金利負担が低いうちに、業務効率化・デジタル化への先行投資を行う。
AI会計・クラウド導入・新拠点準備など、未来の生産性を高める支出に活用。
② 借換・条件変更でコスト削減
複数の融資を一本化(借換)することで、金利引下げ+返済期間延長が可能に。
これにより、毎月の資金繰りが大幅に改善するケースもあります。
③ 「信用保証協会」付き融資の見直し
保証付き融資は安全ですが、保証料負担が重い。
一定の実績を積んだ企業は、プロパー融資(保証なし)への切り替えを検討。
金融機関の信頼を高める絶好のチャンスになります。
◆ 銀行と“味方関係”を築くための習慣
- 年2回の「報告訪問」を欠かさない
決算報告だけでなく、中間期にも自社の現況を伝える。 - “悪い情報ほど早く伝える”
資金ショートや赤字見通しは、早めに共有すれば信頼は落ちません。 - 事業計画書を持参して相談する
単なる融資申込ではなく、「成長の相談」として関係を築く。
銀行員は「報告が早い・説明が丁寧・計画がある」企業を最も信頼します。
融資とは交渉ではなく、共創のプロセスなのです。
◆ 補助金・助成金と融資を組み合わせる
資金調達の“攻めの設計”として、
「補助金+融資」をセットで考えるのも有効です。
例:IT導入補助金で導入コストの半額を補助 → 残りを低利融資でカバー
この組み合わせにより、自己資金負担を抑えつつ、成長投資を早期実行できます。
税理士や商工会議所、認定支援機関と連携すれば、
補助金採択率や融資審査の通過率が大幅に上がります。
◆ 「借入余力」は経営の安全装置
多くの中小企業は、「借りられないこと」よりも「借りすぎること」を心配します。
しかし、“借入余力を持つこと”こそ最大の防御です。
銀行との信頼を積み上げておけば、
いざというときに「素早く資金を動かせる」。
この“スピード対応力”が、経営危機を救うことになります。
◆ 結び ― 借金ではなく「資本のレバレッジ」
金融機関との付き合い方改革とは、
借入を“最後の手段”ではなく、“経営の推進力”として捉えること。
借りるとは、「未来へのレバレッジ(てこ)」をかける行為です。
資金を守る経営から、資金を動かす経営へ。
それが、次の時代を生き抜く中小企業の新常識です。
📘 出典・参考
中小企業庁『金融機関との上手な付き合い方』
日本政策金融公庫『融資のポイントと評価基準』
2025年10月22日 日本経済新聞「企業現預金100兆円にメス」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
