◆ 「黒字倒産」はなぜ起きるのか
「決算では黒字なのに、資金が足りない」
――これは中小企業経営で最もよくある“落とし穴”です。
その原因は、損益と資金のズレ。
利益は出ていても、売掛金の回収が遅れたり、在庫が増えたりすると、
キャッシュは会社からどんどん流出していきます。
だからこそ必要なのが、キャッシュフロー経営です。
単なる会計数字ではなく、「お金の流れ」で会社を読む力を持つことが、
これからの中小企業経営者にとって最大の武器になります。
◆ 「資金繰り表」は経営の健康診断書
資金繰り表は、未来のキャッシュの出入りを予測するツールです。
目的は“管理”ではなく“意思決定の精度向上”にあります。
資金繰り表を持つことで、次の3つが実現します。
- 資金ショートを未然に防ぐ
支払予定と入金予定を把握することで、先手の対応が可能に。 - 投資・借入・返済の判断が明確になる
将来の資金余力を見える化し、根拠ある経営判断ができる。 - 銀行・金融機関との信頼関係が強化される
資金計画を提示できる企業は、融資審査で圧倒的に有利です。
◆ 資金繰り表の基本構成
| 区分 | 内容 | 主なポイント |
|---|---|---|
| ① 期首現金残高 | 前月から繰り越した現金・預金 | スタートライン |
| ② 入金予定 | 売掛金回収、現金売上、借入金、補助金など | タイミング重視 |
| ③ 支払予定 | 仕入・人件費・経費・税金・返済など | 支払日基準で記載 |
| ④ 期末現金残高 | 当月末の資金残高(=①+②-③) | 安全ラインを確認 |
1か月単位の短期資金繰り表をベースに、
3か月先・6か月先を見通す“中期キャッシュ予測”を加えるのが理想です。
◆ エクセルでもAIでもOK ― 継続できる形に
大切なのは「見栄えより継続」です。
- Excelで自作する(テンプレート形式)
- freee・マネーフォワード等のクラウド会計で自動作成
- ChatGPTやAIツールに「翌月の資金繰りを予測」させる
たとえばChatGPTにCSVを読み込ませて、
「今の支払い傾向から資金ショートが起きる時期を予測して」と指示すれば、
AIが簡易シミュレーションを出してくれます。
“人間が計画、AIが予測”という分業スタイルが、
これからの中小企業キャッシュ管理の主流になるでしょう。
◆ 「資金の見える化」で意思決定が変わる
資金繰り表をつくると、これまで“感覚的に”判断していたことが、
数字で裏づけられるようになります。
| Before | After |
|---|---|
| 「今月は出費が多いから見送ろう」 | → 「翌月にキャッシュ余力が出るから投資可能」 |
| 「税金が思ったより多い」 | → 「来期の納税資金を事前に積み立て」 |
| 「銀行借入の返済で資金が減った」 | → 「返済後も運転資金は2か月分キープ」 |
この“数字で考える経営”こそ、キャッシュフロー経営の本質です。
◆ キャッシュフロー経営の実践ステップ
- 毎月の資金繰り表を更新(15日・月末など)
- 最低資金ライン(例:月商の2か月分)を設定
- 入金・支払予定をチーム全体で共有
- 月次会議で「資金余力」を意思決定材料に
- 半年ごとに資金繰り改善策を見直す
この5つを仕組み化するだけで、
「資金が足りないから投資できない」ではなく、
「資金をコントロールして投資する」企業に変わります。
◆ 銀行が信頼する企業の共通点
日本政策金融公庫など金融機関が高く評価するのは、
「将来資金を数字で説明できる企業」です。
借入の可否は利益よりも、
「どれだけ先を読んで資金を動かしているか」で決まります。
資金繰り表を持っているだけで、信用格付けが一段上がるケースもあります。
◆ 税理士・FPからの実務アドバイス
- キャッシュフローは“体温”のようなもの。毎月測定が健康経営の第一歩。
- 資金繰り表と経営計画書をセットで見ること。
- 未来の数字を「予想」ではなく「仮説」として扱う。外れても更新すればいい。
こうした意識を持つだけで、資金繰りは“受け身の作業”から“経営戦略”へ変わります。
◆ 結び ― 数字の先に、経営の未来が見えてくる
キャッシュフロー経営とは、「資金を読む力」と「先を動かす力」。
数字を追うことが目的ではなく、意思決定のスピードと確度を上げるための武器です。
資金繰り表を“過去の記録”ではなく“未来の羅針盤”として活用する――
それが、これからの中小企業が生き抜くための新しい経営スタイルです。
📘 出典・参考
中小企業庁『キャッシュフロー経営ハンドブック』
日本政策金融公庫『資金繰り表の作り方と活用法』
2025年10月22日 日本経済新聞「企業現預金100兆円にメス」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
