中小企業のキャッシュマネジメント実践ガイド② 手元資金はいくらが最適か ― 「安心」と「効率」のバランスを考える

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◆ ため込みすぎも危険、少なすぎても不安

「手元資金はいくら持つべきか?」
これは多くの経営者が頭を悩ませるテーマです。

資金は多ければ安心ですが、過剰な現預金は資本効率を下げる原因にもなります。
逆に、少なすぎると取引先の支払遅延や突発的な出費に耐えられず、資金ショートのリスクを高めます。

経営判断の肝は、「守り」と「攻め」のバランス。
そのためにまず、“必要な安全資金”の目安を知ることが重要です。


◆ 手元資金の目安は「月商の2~3か月分」

金融庁や中小企業庁の指針、さらには銀行の融資実務の経験から見ても、
多くの企業で目安となるのは 「月商の2~3か月分」 です。

会社規模手元資金の目安備考
小規模事業(売上1億円未満)月商の3か月分予備資金を厚めに確保
中堅クラス(売上1~10億円)月商の2か月分運転資金の安定確保
成長投資を計画中月商の1.5か月+投資額攻めの資金も同時に確保

たとえば月商が1,000万円の会社であれば、
2~3,000万円程度が「安全ゾーン」といえるでしょう。
それを超える資金は「使うための資金」として活用の余地があります。


◆ “余裕資金”を見極めるステップ

  1. 運転資金サイクルを把握する
     仕入・売掛・支払のタイミングを一覧化し、
     資金が最も減る時期(資金ギャップ)を明確に。
  2. 最低現金残高を設定する
     「この金額を下回ったら危険」というラインを社内ルールに。
     会計ソフトのキャッシュフローレポート機能を活用しましょう。
  3. 余剰部分を「投資・借入返済・社内預金」などに振り分ける
     使途を明確にすることで、漫然と現金が積み上がるのを防げます。

◆ 「資金を活かす」3つの考え方

① 未来の収益を生む投資に回す

AI導入、営業DX、採用・教育など、回収可能性の高い支出を優先。
税務上の経費効果も見ながら、「使って減るお金」から「使って育つお金」へ。

② 借入の返済・圧縮に使う

余剰資金を借入金の返済に充てれば、金利負担を軽減できます。
ただし、運転資金まで削ると資金繰り悪化につながるため慎重に。

③ 社員還元や福利厚生の充実に活かす

人的資本投資の一環として、社員のエンゲージメントを高める支出も有効です。
優秀な人材の定着が、中小企業の最大の「リターン」になることもあります。


◆ 銀行が見ている“資金余力”の指標

金融機関が企業の健全性を判断する際、
次のような指標を重視します。

  • 現金比率(現預金 ÷ 総資産):目安15~20%以上
  • 当座比率(流動資産-棚卸資産 ÷ 流動負債):100%以上で良好
  • 営業キャッシュフローの安定性:毎期プラスであれば信頼度UP

これらを自社で定期的にチェックすることで、
銀行交渉力が上がり、融資枠拡大にもつながります。


◆ 税理士が勧める“内部留保見直し”チェックリスト

  • ☐ 現預金が月商の3か月分を超えていないか
  • ☐ 借入返済よりも現預金増加が優先されていないか
  • ☐ 投資計画・人材計画が現金残高に見合っているか
  • ☐ 資金使途を社内で共有し、PDCAが回っているか

この4項目を年1回見直すだけでも、
「眠る資金」を「動く資金」に変えるきっかけになります。


◆ 結び ― キャッシュは「安心の源」から「戦略資源」へ

企業にとって現金は命綱。
しかしそれをただ抱えているだけでは、
企業も人も成長しません。

「現金=リスク回避」ではなく「現金=戦略自由度」という発想へ。
その切り替えこそが、これからの中小企業経営に求められる姿勢です。


📘 出典・参考
2025年10月22日 日本経済新聞朝刊「企業現預金100兆円にメス」
中小企業庁『中小企業の資金繰り円滑化のための指針』
日本政策金融公庫『中小企業の財務分析2024』


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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