暗号資産(仮想通貨)は、もはや一部のIT企業や投機家だけのものではありません。
海外送金、インフレ対策、企業ブランディングなど、実需を背景とした保有例が中小企業にも広がりつつあります。
しかし、ビットコインなどを企業資産として扱うには、管理リスク・内部統制・会計処理を慎重に設計する必要があります。
本稿では、税理士・会計士が顧問先の中小企業にアドバイスする際に押さえておきたい実務ポイントを、5つの視点から整理します。
1. 取引目的とリスク認識を明確化する
まず最初に重要なのは、「なぜ暗号資産を保有するのか」を明確にすることです。
目的が曖昧なまま導入すると、後に会計処理や税務判断がブレる要因になります。
典型的な保有目的は次の3類型です。
- 事業決済目的:海外取引やクラウドサービス支払い等に使用
- 投資・余剰資金運用目的:企業の資金効率改善を目的
- 財務戦略目的:通貨分散・インフレヘッジ・企業ブランディング
目的が異なれば、評価・会計処理・税務上の区分も変わります。
たとえば決済目的なら「流動資産」、長期保有なら「無形固定資産」として扱われるなど、初期設計の段階で明確化しておくことが重要です。
2. ウォレット管理とアクセス権限の分離
暗号資産の最大の特徴は、「自己管理責任」にあります。
秘密鍵やウォレット(電子財布)の紛失・不正送金があっても、第三者による補償は原則ありません。
そのため、企業で保有する場合は以下のルール設計が必須です。
- アクセス権限の分離:送金操作権限と承認権限を別人に分ける
- コールドウォレットの活用:オフライン保管を基本とする
- 復元フレーズの保管体制:金庫・貸金庫など物理的に安全な場所で保管
- ログ管理の徹底:送金履歴・操作履歴を監査証跡として残す
特に中小企業では、社長・経理担当者の二人で完結してしまうケースが多いため、権限集中による内部不正リスクを軽視すべきではありません。
3. 会計処理と税務申告の整合性を保つ
暗号資産の会計処理は、日本基準(実務対応報告第38号)で明確化されていますが、
実務では「評価単価」「保有単位」「取引履歴の照合」などで混乱が生じやすい分野です。
実務上のポイントは以下の3点です。
- 取得原価の明示:取引所の取引履歴をもとに円換算を記録
- 期末評価の方法統一:取引所レートを統一し、内部規程で明記
- 雑所得・法人課税の差異把握:個人事業と法人で税務処理が異なる点を整理
また、NFTやトークン発行など新形態の取引を行う場合は、契約実態に応じた実質課税原則の適用が求められます。
4. 内部統制と監査対応の枠組みをつくる
暗号資産を保有する企業に対しては、監査法人や税務署も「管理体制の整備状況」を重視します。
具体的には、次の3つの文書整備が有効です。
- 暗号資産管理規程:保有方針・評価ルール・承認手続の明記
- ウォレット運用マニュアル:アクセス権限・復旧手順の明示
- 内部監査チェックリスト:定期的な残高照合・ログ確認の仕組み
これらを文書化しておくことで、会計監査・税務調査・銀行融資審査における説明責任を果たしやすくなります。
特に、監査法人は「保有実在性」「アクセス権限の適切性」を重点的に確認します。
5. 経営・財務への影響を定量的に把握する
暗号資産を保有すると、企業の財務体質・信用評価・キャッシュフロー管理にも影響します。
評価損の発生や価格変動による資産価値の変動が、自己資本比率や金融機関の格付けに波及する場合があります。
このため、
- 月次決算での時価換算シミュレーション
- 金融機関への開示方針(保有額・リスク説明)
- 重要性が高い場合の注記開示検討
を事前に行うことが望ましいです。
特にメタプラネットのように、株価が暗号資産相場と連動する例もあり、
中小企業であっても経営戦略と一体化したリスク分析が不可欠です。
結論
中小企業にとって暗号資産保有は、リスクであると同時にチャンスでもあります。
ただし、その扱い方を誤ると、内部不正・会計誤謬・税務指摘といった重大リスクに直結します。
税理士・会計士としては、
「保有目的の明確化」「ウォレット管理」「会計・税務整合」「内部統制」「財務影響分析」
の5点を基本骨格として、経営者に実務的助言を行う体制づくりが求められます。
暗号資産は、単なる新しい投資商品ではなく、経営インフラの一部としてどう位置づけるかが問われる段階に入っています。
出典
- 日本経済新聞「ビットコイン、崩れた経験則」(2025年10月31日)
- 企業会計基準委員会「実務対応報告第38号」
- 金融庁「暗号資産交換業者等に関する監督指針」
- 国税庁「暗号資産の会計・税務FAQ(2025年版)」
- 日本公認会計士協会「ブロックチェーンと会計監査に関する実務指針」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
 
  
  
  
  