近年、世界各国の中央銀行が金(ゴールド)を積極的に買い増ししています。
とくに2022年以降、その動きは過去半世紀で最大規模に。
「なぜ、国の“お金を作る機関”が、金を集めているのか?」――。
この背景には、通貨の信頼、地政学リスク、ドル依存からの脱却という3つのキーワードがあります。
🏦 1. 金は「最後の通貨」
金は通貨ではありませんが、通貨の信頼を支える資産として古くから存在しています。
1971年にドルと金の兌換が停止(ニクソン・ショック)されて以降も、
世界の中央銀行は「安全資産」として金を保有し続けています。
金は誰の負債でもなく、発行主体もない。
そのため、政治や経済に左右されにくい“無国籍の通貨”として評価されています。
🌍 2. 世界の中央銀行、金買いの動きが加速
世界の金需要を調査する「ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)」によると、
2022年以降、中央銀行による金購入量は年間1000トン超に達し、
これは1970年代以来の高水準です。
🏆 主な金買い増し国
| 国名 | 背景・目的 |
|---|---|
| 中国 | ドル離れ・人民元の信頼強化 |
| トルコ | 通貨下落への防衛 |
| ポーランド | 外貨準備の分散化 |
| シンガポール | 地政学リスクへの備え |
| ロシア | 西側制裁によるドル資産の凍結回避 |
特に中国人民銀行は、16カ月連続で金を買い増ししており、
「米ドル以外の価値基準」を模索する動きの象徴とされています。
💵 3. 通貨の信頼が揺らぐ時、金が買われる
金は「利息を生まない資産」ですが、
通貨や国債への信頼が低下する局面では、金が選ばれます。
🔹 金が買われやすいタイミング
- 各国の財政赤字・国債発行が増加しているとき
- ドルの信頼性(債務上限問題など)が揺らいでいるとき
- 地政学リスク(戦争・制裁・政変)が高まっているとき
- インフレで通貨価値が実質的に下がっているとき
金は「利息ゼロ」でも、“信用不安”のときにもっとも強い資産です。
⚖️ 4. 「ドル依存からの脱却」という構造変化
現在の世界金融システムは、米ドルを基軸とする「ドル基軸体制」に支えられています。
しかし、ウクライナ戦争や制裁措置をきっかけに、
一部の国々が「ドルに頼りすぎない準備体制」を模索し始めました。
そこで注目されているのが金です。
金は国際決済でも使えるうえ、どの国の中央銀行でも価値を認め合える。
いわば「国家間の共通言語」としての役割を再び取り戻しています。
🧭 5. 日本銀行の金保有はどうなっている?
日本銀行も、約7〜8%を金で保有しています(外貨準備の一部)。
金額にすると約12兆円超(2025年時点)。
大規模な買い増しは行っていませんが、
「非常時の保険資産」としての位置づけは明確です。
日銀は金そのものよりもドル建て資産(米国債など)を重視していますが、
今後、世界のトレンド次第では金保有比率を見直す可能性もあると見られています。
💡 6. 投資家にとっての示唆 ―「中央銀行の動きは長期シグナル」
個人投資家が注目すべきは、中央銀行の金買いは短期ではなく“長期トレンド”という点です。
つまり、「市場が一時的に高い/安い」といった投機的動きではなく、
国家レベルで“通貨の信頼リスク”に備えているというメッセージなのです。
💬 例えるなら、「国が保険に入っているようなもの」。
そのため、個人投資家にとっても、
資産全体の5〜10%を金(現物・ETF含む)で保有するのは理にかなった戦略といえます。
🪙 7. 金を持つことは「信頼を分散する」こと
金を持つことの本質は、「儲けること」ではなく、
「信頼を分散させること」にあります。
- 円やドルなど、特定の通貨に偏らない
- 株や債券など“金融資産”とは異なる軸を持つ
- 不確実な時代でも、価値を失いにくい資産を一部持つ
この考え方は、個人にも当てはまります。
新NISAや長期運用の中で、金や銀ETFを少しずつ取り入れることは、
“通貨の信頼”を分散させる最もシンプルな方法といえるでしょう。
🌈 8. まとめ:金は「国家のポートフォリオ」
- 各国の中央銀行が金を買い増すのは、通貨の信頼を補うため
- 金は「無国籍の通貨」として、国境を超えて信頼される
- 個人にとっても、金保有は「資産の安定装置」になる
📖 一言でまとめるなら――
「国も人も、“もしもの時”のために金を持つ。」
🪙 参考資料:
出典:World Gold Council “Gold Demand Trends 2024”
国際決済銀行(BIS)統計・日本銀行 外貨準備構成
2025年10月17日 日本経済新聞朝刊「銀最高値、群がる投機資金」
IMF “Central Bank Gold Holdings Data”
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
