中国の不動産市場は長らく「過剰債務」「空き家問題」などのリスクが語られてきました。ところが近年、新たな金融商品として注目を集めているのが 中国版の不動産投資信託(REIT) です。2021年にスタートした公募REIT市場は、わずか3年で74銘柄・時価総額2200億元超に拡大しました。
本稿では、中国REITの現状と拡大戦略、その収益性とリスク、日本の経験との比較について整理してみます。
中国REIT市場の特徴と成長
中国で公募REIT市場が始まったのは2021年6月。スタート時は有料道路や工業団地が中心でしたが、現在では商業施設やデータセンター、再生可能エネルギー施設まで広がっています。
- 工業団地:19銘柄
- 有料道路:13銘柄
- 商業施設:10銘柄
- 再エネ関連:高利回り(平均11.55%)
また、外資系のREITも登場しています。シンガポール大手キャピタランド傘下の 華夏凱徳商業REIT は、IPO応募倍率が500倍超と異例の人気を集めました。投資家の関心が非常に高いことがわかります。
平均分配金利回りは2024年末時点で 6.37% と、日本のJ-REIT(5.15%)を上回る水準にあります。利回り重視の投資家にとって魅力的な商品となっているのです。
国家主導の市場育成
中国政府はREIT市場を「成長の起爆剤」と位置づけています。国家発展改革委員会は、地方政府や国有企業に対し、収益物件を積極的に証券化してREIT化するよう通知を出しました。
投資対象も鉄道、港湾、送電網、観光施設、介護施設など幅広く設定され、これまで国有企業中心だった供給に民営企業の参入も促しています。
つまりREITは、
- インフラ・不動産投資の資金循環を改善する仕組み
- 地方財政の資金調達手段
- 投資家に安定利回りを提供する商品
という「三方良し」の政策ツールと位置づけられているのです。
ビジネスモデルとリスク
中国版REITの仕組みは、日本や米国と同じく「物件からの利益を投資家に分配する」モデルです。収益の9割以上を分配するルールがありますが、米国REITのような法人税免除制度は導入されていません。
課題として挙げられるのが以下の点です:
- 過剰投資リスク:商業施設REITは人気ですが、都市部ではネット通販拡大により空室率が高まっています。
- 利益相反:設立母体(デベロッパーや国有企業)が保有物件をREITに売却するモデルは、日本でも問題になったように「質の劣化」や「高値売却」の懸念がつきまといます。
- 透明性の不足:開示水準はまだ国際的に見て不十分で、投資家保護の枠組みが課題です。
日本でもバブル崩壊後にREITが導入され、不良債権処理を経て利回り重視の市場が育ちました。中国も同様に「資産の証券化によって危機を乗り越える」という道を歩もうとしていますが、安易な拡大は市場信頼を損なう可能性があります。
日本の経験が示す教訓
日本のJ-REIT市場は2001年に誕生しました。当初は物件数も限られていましたが、金融危機や不動産市況の変動を経て、現在は約60兆円規模の市場に成長しています。
成功の要因としては:
- 海外投資家を呼び込む透明性の確保
- ガバナンス強化
- 安定的な利回りの実現
が挙げられます。岡三証券の並木幹郎シニアアナリストも「海外資金を呼び込んだ功績は大きい」と指摘しています。
中国が同じ道を歩むとすれば、 「拡大ありき」ではなく透明性と収益性の維持が最重要 です。日本の経験を研究している中国政府が、どこまで市場の健全性を保てるかが試されています。
投資家にとっての視点
では、個人投資家が中国REITに注目する際のポイントはどこでしょうか。
- 利回りの高さ:日本より高い平均利回りは魅力。ただし高利回り=高リスクの場合もある。
- 対象資産の分散:再エネやインフラは成長余地大。一方で商業施設はリスク要因。
- 為替・規制リスク:中国特有の政策変更や人民元の為替変動も投資リスクに含まれる。
- 成長市場の初期段階:IPO人気から見ても潜在需要は大きいが、まだ市場制度は成熟途上。
短期の値上がり益よりも、中長期的に「安定利回りが確保され続けるか」を見極める視点が重要です。
まとめ
中国のREIT市場は、政府主導のもと急拡大を遂げています。安定した利回り商品として注目される一方、過剰投資や利益相反といったリスクも顕在化しつつあります。
日本の経験が示すのは、 透明性・ガバナンス・投資家保護の仕組みが市場の持続性を支える ということ。中国REITが今後どこまで健全に発展できるかは、まさに「日本の教訓を活かせるか」にかかっているといえるでしょう。
📌参考:日本経済新聞 2025年9月23日朝刊
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

