貸付用不動産の評価見直しは、相続税実務において大きな転換点といわれています。特に、短期間で不動産を取得・建築することで相続税評価額を引き下げる手法に対して、明確な制約が設けられました。
もっとも、実務の現場では一つの疑問が生じています。不動産を活用した節税は本当に終わるのでしょうか。それとも形を変えて残り続けるのでしょうか。
本稿では、今回の改正を踏まえ、不動産節税の「終焉」か「再編」かを実務的に検証します。
従来の不動産節税の構造
これまで不動産を活用した相続税対策が有効とされてきた理由は、評価方法の差にあります。
現金や預金は額面どおり評価されるのに対し、不動産は、
- 土地は路線価評価
- 建物は固定資産税評価額
- 貸付用の場合は借家権・貸家建付地の減額
といった仕組みにより、市場価格より低く評価されるのが一般的でした。
さらに、
- 借入金による取得で債務控除が可能
- 小規模宅地等の特例との併用
といった制度を組み合わせることで、評価額を大きく圧縮することができました。
この結果、
資産の実質価値を維持したまま課税ベースだけを下げる
という構造が成立していました。
今回の改正が直撃する領域
今回の改正がターゲットとしているのは、典型的な「直前対策」です。
具体的には、
- 相続直前に賃貸不動産を取得・建築する
- 金融機関からの借入を活用する
- 評価減と債務控除を同時に利用する
といったスキームです。
改正後は、
- 取得後5年以内の貸付用不動産
→ 原則として時価評価
となるため、路線価評価による圧縮が使えなくなります。
したがって、
短期・駆け込み型の不動産節税は実質的に封じられた
といえます。
それでも不動産が有効とされる理由
一方で、不動産の活用そのものが無意味になったわけではありません。
実務上、引き続き重要な要素は以下の通りです。
① 長期保有による評価差
今回の改正は「取得後5年以内」に限定されています。
したがって、
- 早期に取得して長期保有する
- 相続発生時点で5年を超えている
場合には、従来どおりの評価体系が適用される可能性があります。
つまり、
時間をかけた対策は依然として有効
です。
② 小規模宅地等の特例の影響
貸付事業用宅地については、
- 最大50%の評価減
が認められています。
この制度は今回の改正でも直接は見直されていません。
したがって、
- 賃貸事業の継続性
- 要件充足
が確保されていれば、評価減の効果は依然として大きいといえます。
③ 収益性と資産管理機能
不動産は単なる節税手段ではなく、
- 賃料収入を生む資産
- インフレ耐性を持つ実物資産
という側面もあります。
今回の改正によって、
- 節税だけを目的とした取得
は否定される一方で、
- 資産運用として合理性のある不動産
は引き続き重要な選択肢となります。
実務の転換点:節税から資産設計へ
今回の改正が示しているのは、不動産節税の否定ではなく、その前提の変化です。
これまでの実務は、
- 評価差をどう作るか
- どの制度を組み合わせるか
という「技術的最適化」に重きが置かれていました。
しかし今後は、
- 保有期間をどう設計するか
- 事業としての実態をどう確保するか
- 相続後の承継まで見据えるか
といった視点が不可欠になります。
つまり、
節税スキームの設計から、資産承継の設計へ
という転換です。
不動産節税は終わったのか
結論として、不動産節税は完全に終わったわけではありません。
ただし、
- 短期的な評価圧縮
- 形式的なスキーム活用
は明確に制限されました。
その意味で、
「簡単に効く節税」は終わった
といえます。
一方で、
- 長期保有
- 実態ある賃貸事業
- 制度要件を踏まえた設計
といった前提を満たす場合には、依然として有効な領域は残されています。
結論
今回の貸付用不動産の評価見直しは、不動産を活用した相続税対策のあり方を大きく変えるものです。
短期的な節税手法は大きく制限される一方で、長期的な資産設計としての不動産の重要性はむしろ高まります。
今後は、
- 節税効果だけに依存しない判断
- 収益性・承継・管理を含めた総合設計
が求められる時代になります。
不動産節税は終わるのではなく、
より本質的な資産戦略へと再編されている
と捉えるべきでしょう。
参考
・税のしるべ 2026年3月9日
・令和8年度税制改正大綱
