――「人生100年時代」の資産活用入門(第2回)
前回(第1回)では、現役時代と退職後の資産運用は目的も前提も大きく異なることを確認しました。退職後は「資産を増やす」よりも「安心して減らさずに使う」ことが大切であり、そのためにはリスクを下げることが不可欠です。
では、具体的にどうやってリスクを下げればよいのでしょうか。野尻哲史さんの著書『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法』(日本経済新聞出版)を参考にしながら、3つの視点で整理してみましょう。
視点1:どうやってリスクを下げるのか
最初に考えるべきは「手段」です。資産形成期には株式中心でもよかったポートフォリオを、資産活用期には徐々に安全資産へシフトしていく必要があります。
株式から債券・現金へシフト
- 株式や株式投信の割合を減らすことで、値動きの激しさを抑える。
- 債券や預金を増やすことで、安定的な利息収入や元本確保を重視する。
例えば、2,000万円の株式投信を持っている人が、そのうち500万円を個人向け国債や定期預金に切り替えるだけでも、全体のリスクは大幅に下がります。
分散の工夫
リスクを下げるには「分散投資」が有効です。ただし退職後は、あまりに細かく商品を分散しすぎると、どれを売却すればよいか迷う原因にもなります。そのため、「バランス型投信」などを活用して少数の商品にまとめる方法も現実的です。
視点2:どこまでリスクを下げるべきか
次に大切なのは「リスクをどの程度まで下げるか」という基準を持つことです。
リスクゼロは現実的か?
「老後だからリスク資産はゼロにしよう」と考える方もいますが、これは必ずしも正解ではありません。預金や国債だけにしてしまうと、インフレに資産価値が目減りするリスクが残ります。また、リターンがほぼゼロでは、長い老後を支える資産寿命を保ちにくくなります。
生活資金と資産のバランス
- 1~3年分の生活費は現金・預金で確保
- 残りは債券や安定型投信を中心に、株式も少し残す
こうした考え方が現実的です。生活費を確保しておけば、市場の変動があってもすぐに困ることはなくなります。残りの資産は多少リスクを取って運用しても精神的に安心できます。
例:リスク水準の調整
仮に総資産が4,000万円ある人であれば、
- 現金・預金:1,000万円(生活費3年分相当)
- 債券・債券投信:2,000万円
- 株式・株式投信:1,000万円
このように、株式比率を25%程度に抑えつつ、現金と債券を中心にするポートフォリオが一つの目安になります。
視点3:加齢に応じてリスクを変える
退職直後と80代では、必要な資金も残りの寿命も違います。そのため、ポートフォリオのリスクも「固定」ではなく、年齢に応じて調整していくのが自然です。
年齢とリスクの関係
- 60代前半:まだ生活が長く残っているため、ある程度リスク資産を残す。
- 70代以降:生活費の確保を優先し、現金や債券の割合をさらに増やす。
- 80代以降:運用益よりも取り崩しのしやすさを重視し、シンプルな資産構成にする。
実践的な方法
株式やリスク資産を一度にゼロにするのではなく、
- 70歳で株式比率を30% → 75歳で20% → 80歳で10%
といった具合に、少しずつ比率を下げていくと調整しやすいでしょう。
リスクを下げることの「安心感」
リスクを下げることの最大のメリットは「安心感」です。
- 毎日の株価に一喜一憂しなくてよくなる
- 取り崩しの計画を立てやすくなる
- 「老後資金が足りるだろうか」という不安が和らぐ
退職後の生活では、精神的な落ち着きがとても大切です。資産運用の目的は「お金を増やすこと」だけではなく、「安心して暮らすこと」なのだと改めて意識すると、無理のないポートフォリオが見えてきます。
まとめ
リスクを下げるための3つの視点を整理すると、以下のようになります。
- どうやって下げるか:株式から債券・現金へシフトし、分散も意識する
- どこまで下げるか:生活資金の確保を前提に、インフレ対応として一定のリスク資産も残す
- 年齢に応じて変える:60代・70代・80代とライフステージに合わせてリスク比率を調整
次回(第3回)は、こうしたリスク低減の具体的手段として「債券」と「バランス型投信」をどう活用するかを取り上げます。実際にどんな商品を組み入れるべきか、選び方や注意点について詳しく見ていきましょう。
(参考:日本経済電子版 2025年9月14日記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
