前回は、家族信託を活用して「認知症発症後でも相続税対策を継続できる仕組み」について紹介しました。
今回はさらに一歩進めて、マンション特有の相続トラブル ― 共有名義や換価分割の問題 ― を具体的に見ていきます。
なぜ「マンション相続」は難しいのか?
土地や預貯金の相続に比べて、マンションの相続には独特の難しさがあります。
それはマンションが「分割しにくい資産」であることに由来します。
- 預貯金なら金額を分けやすい
- 一戸建てなら土地を分筆できる場合もある
- しかしマンションは「一つの区分所有権」なので、物理的に分けることができない
そのため、共有名義や売却(換価分割) に頼らざるを得ないケースが多いのです。
事例1:兄弟で「共有名義」にした結果
ある家庭では、父が亡くなり、都内のマンション(評価額6000万円)を長男・次男で2分の1ずつの共有名義にしました。
最初は「兄弟だから大丈夫」と思っていても…
- 売却したい長男と、住み続けたい次男の意見が対立
- 修繕積立金や固定資産税の負担割合を巡りトラブル
- 将来さらに次世代に相続が発生し、権利者がどんどん増えて収拾がつかなくなる
➡ 共有名義は「揉めごとの温床」になりやすいのです。
事例2:換価分割で売却したが…
別の家庭では、母が亡くなり、子ども3人が相続人。
「平等に分けるためにマンションを売却(換価分割)」することにしました。
しかし…
- 市場価格と相続税評価額に差があり、税金の負担感が不公平に
- 売却のタイミングが悪く、相場より安く売ることになった
- 長年住んでいた兄が「思い出の詰まった家を手放したくない」と反対
➡ 換価分割も必ずしも“公平”ではなく、心理的負担も大きいのです。
FP・税理士視点からの対策
1. 生前に「誰に残すか」を決める
遺言や家族信託を活用し、特定の相続人にマンションを相続させる意思表示をしておく。
2. 「代償分割」を検討
マンションを特定の相続人が取得し、他の相続人には現金(代償金)で調整する方法。
→ 生命保険を活用すれば、代償金の原資を用意しやすい。
3. 相続税評価の確認
マンションの相続税評価額(固定資産税評価額や路線価)は、実際の売買価格と乖離する場合があります。
→ 税務と不動産評価の両面から事前にシミュレーションすることが大切。
4. 共有名義はできるだけ避ける
どうしても共有にする場合は、管理費・修繕費の負担割合や売却条件について、「共有契約」を文書で残す。
まとめ
マンション相続は、
- 共有名義 → 意見対立・将来世代で複雑化
- 換価分割 → 税務上・心理的な不公平感
というリスクを抱えています。
その解決策は、生前の準備。
遺言や家族信託、生命保険などを組み合わせることで、相続人間の不公平や揉めごとを未然に防ぐことが可能です。
📌次回(第5回・最終回)は、「共生社会に向けたまとめ 〜制度+人の理解+お金の備え〜」 として、これまでの内容を総合的に整理します。
📌 参考 日本経済新聞朝刊(2025年9月26日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
