老朽化が進む分譲マンションの再生は、これからの日本社会にとって避けて通れない課題です。
築40年を超えるマンションが急増する一方で、区分所有者の高齢化や資金負担の問題により、建て替えや大規模改修が進みにくい現実があります。
こうした状況を受け、2026年4月からマンションの建て替えや改修に関する税優遇制度が見直されます。
とりわけ注目されるのが、税優遇の要件となっていた住戸面積基準が「50平方メートル以上」から「40平方メートル以上」へと緩和される点です。
本稿では、この制度改正の内容と背景、そして区分所有者や今後のマンション政策に与える影響について整理します。
マンション再生における税優遇制度の位置づけ
マンションの建て替えや大規模な再生事業では、住民が組合を設立し、いったん全戸を組合が取得した上で、新たな建物を建設し、再び区分所有者へ売り渡す仕組みが一般的です。
この過程では、通常であれば
・不動産取得税
・登録免許税
・事業所税
などの税負担が発生します。
しかし、一定の要件を満たした「マンション再生組合」については、これらの税が非課税となる特例が設けられてきました。
税負担を軽減することで、建て替え事業の採算性を高め、住民の金銭的負担を抑える狙いがあります。
これまでの「50平方メートル要件」が抱えていた課題
従来、この税優遇を受けるためには、2人以上世帯向けの住戸について「全戸50平方メートル以上」であることが求められていました。
しかし、この要件は近年の居住ニーズと必ずしも合致していませんでした。
日本では単身世帯や高齢夫婦世帯が増加しており、必ずしも広い住戸が必要とされないケースが増えています。
また、再建時に住戸面積をやや抑え、その分戸数を増やせば、
・売却戸数を増やせる
・事業収入が増え、既存区分所有者の負担を減らせる
といったメリットがあります。
にもかかわらず、50平方メートル要件が壁となり、柔軟な事業設計が難しい状況が続いていました。
2026年4月からの見直し内容
今回の制度改正では、税優遇の対象となる住戸面積要件が次のように整理されます。
・2人以上世帯向け住戸:40平方メートル以上(従来は50平方メートル以上)
・単身世帯向け住戸:25平方メートル以上(従来どおり)
この見直しにより、比較的コンパクトな住戸を含めた再建計画でも、税優遇を受けやすくなります。
結果として、
・同じ総床面積でも戸数を増やす
・外部向け販売を増やし、事業収益を確保する
といった設計が現実的になります。
高齢化と老朽化が進むマンションの現実
国の推計によれば、築40年以上のマンションは今後急増し、20年後には現在の3倍以上に達するとされています。
また、築40年以上のマンションでは、世帯主が70歳以上の住戸が過半数を占めています。
高齢の区分所有者にとって、
・多額の一時金負担
・長期間にわたる事業の不確実性
は、建て替えに踏み切れない大きな要因です。
税負担の軽減は万能ではありませんが、「再生を検討する土台」を整える効果は大きいといえます。
建て替えだけでなく「改修」も選択肢に
今回の法改正では、全面的な建て替えに加え、骨組みを残した大規模リノベーションについても、多数決による決議が可能となります。
これは、
・全員合意が困難なケース
・立地や構造上、建て替えが難しいケース
において、現実的な再生手段を広げるものです。
税優遇の見直しと合わせ、マンション再生の選択肢そのものが広がる点も重要です。
結論
今回の税優遇要件の緩和は、単なる「面積基準の変更」にとどまりません。
高齢化・老朽化が同時進行するマンション問題に対し、現実的な再生の道筋を示す政策的メッセージといえます。
今後は、
・管理組合の意思決定
・専門家の関与
・資金計画と税制の理解
が、これまで以上に重要になります。
マンションは「建てたら終わり」の資産ではありません。
どう再生し、どう次世代につないでいくのか。
税制改正は、その議論を本格化させる一つの転機になりそうです。
参考
・日本経済新聞「マンション建て替え、税優遇 来春『40平方メートル以上』に対象拡大」(2025年12月25日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

