このシリーズでは、東京23区を中心とする主要都市での家賃高騰を取り上げてきました。
2020年から2024年のわずか4年間で、可処分所得に占める家賃の割合は1〜5ポイント上昇し、東京23区では34%に達しました。大阪や福岡でもすでに「家計危険ライン」に迫りつつあります。
家賃上昇は単なる不動産市場の話ではなく、教育費・老後資金・貯蓄を直撃する家計全体の課題です。最終回となる今回は、これまでの内容を総まとめしつつ、各家庭が「自分に合った住まいと家計戦略」を選ぶための視点を提示します。
1. 家賃高騰の現状と背景(第1回の振り返り)
- 東京23区:平均家賃21万円超、可処分所得比率34%
- 大阪市:29%
- 福岡市:23%(上昇幅最大の5.4ポイント)
背景は3つありました。
- 分譲マンション価格の高騰:4年間で45%上昇し、購入を断念した世帯が賃貸に流入。
- コロナ後の都心回帰:出社回帰で都心志向が強まり、賃貸需要が集中。
- 修繕費・光熱費の上昇:大家がコストを転嫁し、家賃引き上げを進める。
これらが重なり、「都心に住みたい世帯の家賃負担が限界に近づいている」という構図です。
2. 家賃上昇が家計に与える影響(第2回)
- 教育費とのバッティング
子ども2人の大学進学期には、年間400万円以上の教育費が必要になるケースも。そこに家賃300万円(25万円×12か月)が加われば、世帯年収の大部分を占めてしまう。 - 貯蓄余力の低下
家賃が2割上がると、その分はほぼ貯蓄を削る形で対応せざるを得ない。病気・失業などリスク対応力が弱まる。 - 老後資金の先送り
賃貸は「掛け捨て」。老後も家賃負担が続くため、退職後に資産を持たない不安が増す。
FP的にいえば、「家賃30%以上=危険水域」。教育費や老後資金との両立が難しくなり、長期的に家計の安定性を損なうリスクが大きくなります。
3. 賃貸か購入か?ライフプランからの判断(第3回)
- 賃貸の利点:柔軟性が高く、転勤やライフスタイルの変化に対応しやすい。ただし資産が残らず、老後も負担が続く。
- 購入の利点:資産として残り、老後の住居費を抑えられる。ローン完済後は負担が大幅に軽減される。
都心志向か、郊外シフトか──選択の答えは家庭ごとのライフイベントで変わります。
- 子育て期:教育環境を優先し、持ち家を購入する家庭も多い
- 独身・DINKS期:賃貸で柔軟性を維持する選択が有利
- 定年期:ローンを完済して住居費を抑え、老後の安心につなげたい
重要なのは「30年間の家賃総額」と「購入時の総コスト(ローン+修繕費)」を比較し、自分の人生設計に合うかを見極めることです。
4. 家計防衛の具体策(第4回)
(1)住まいの柔軟性を確保する
- 郊外や準都心に目を向ける
- 広さ・間取りの優先順位を見直す
- 更新時に家賃交渉を試みる
(2)固定費と資産形成を見直す
- 通信費や保険料を削減
- NISAやiDeCoを活用して「自動積立」で将来資金を確保
- 教育費のピーク期に備えて計画的に準備
(3)制度を活用する
- 住宅ローン控除、家賃補助制度、移住支援策
- 老後にはリバースモーゲージや高齢者住宅の選択肢も
「家賃に追われる」から「制度を使って守る」へ。発想の転換が必要です。
5. あなたのケースで考える「住まいの判断基準」
最後に、どの家庭でも使えるシンプルなチェックリストを提示します。
✅ 家賃負担率チェック
- 可処分所得に対して25%以内 → 安定
- 25〜30% → 注意
- 30%以上 → 見直し必須
✅ ライフイベントとの重なり
- 教育費ピーク期と家賃・ローン負担が重なっていないか?
- 老後に家賃を払い続ける設計になっていないか?
✅ 将来資産の残り方
- 賃貸:資産は残らないが柔軟性を得る
- 購入:資産は残るが流動性が下がる
この3点を基準に「自分の家庭に合う選択肢」を判断していくことが、家賃高騰時代の生き方の核心になります。
まとめ──住まいは人生戦略の一部
家賃高騰は一時的な現象ではなく、分譲価格や都市集中の影響を受けた構造的な変化です。
だからこそ、これを「ただの支出」ではなく、教育・老後・資産形成を含めた人生戦略の一部として捉える必要があります。
- 利便性を取るか、貯蓄余裕を取るか
- 賃貸で柔軟性を優先するか、購入で安定を確保するか
- 制度や投資を活用しながら、将来の不安を和らげるか
答えは一つではありません。しかし、「家賃=手取りの何割か」を常に意識し、自分のライフプランに照らして冷静に判断することが、これからの時代を安心して生き抜く鍵になります。
📌 このシリーズで伝えたかったこと
- 家賃高騰は家計の危険水域に達している
- 教育費・老後資金との両立がますます難しくなる
- 賃貸か購入かは家庭ごとのライフプランで決めるべき
- 家計防衛には「柔軟性・固定費削減・制度活用」の3本柱が必要
(参考:日本経済電子版 2025年9月4日記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
