企業の取引がブロックチェーン上で記録される時代が現実味を帯びてきました。
「株式トークン」や「デジタル証券」のような取引は、ブロックチェーンという分散型台帳に記録され、改ざんが極めて困難です。
この特性は、会計監査や税務調査の在り方にも大きな影響を与えます。
会計・税務の世界においても、「データを確認する」から「システムの信頼性を検証する」へと、監査の軸が移りつつあります。
■ ブロックチェーン会計とは何か
ブロックチェーン会計とは、企業の取引データをブロックチェーンに記録し、その台帳を会計帳簿の一部として活用する仕組みを指します。
この方法では、すべての取引が「時系列」「公開鍵」「署名付き」で記録され、後から改ざんすることが極めて困難になります。
従来の会計システムでは、企業が独自に管理するサーバーやデータベース上に帳簿が保存されており、内部関係者による操作リスクが常に存在していました。
ブロックチェーンを用いることで、こうした「内部改ざん」や「データ欠損」のリスクを大幅に減らせます。
さらに、取引ごとにスマートコントラクト(自動契約プログラム)を組み込むことで、支払い・在庫・契約条件の履行を自動的に処理できるようになります。
会計処理がリアルタイムで完結し、決算期末を待たずして財務状況を把握する「常時監査(Continuous Audit)」も現実的になります。
■ 税務監査の透明化とAI分析の融合
税務分野でも、ブロックチェーン上の取引履歴を利用すれば、課税所得の計算や証拠資料の整合性を即座に確認できます。
国税庁や税務当局は、ブロックチェーン取引を自動的に分析するAIツールの導入を視野に入れており、申告内容と取引データの乖離を早期に検出できる可能性があります。
たとえば、企業がデジタル証券を発行・取引する場合、発行量・配当履歴・譲渡データがすべてブロックチェーン上に記録されます。
そのため、「証拠書類を求める調査」から「データベースを直接照合する監査」へと、税務調査の方法自体が変わっていくでしょう。
また、AIとブロックチェーンを組み合わせることで、不正検知モデル(Anomaly Detection Model)が高精度化し、内部統制報告制度(J-SOX)や会計監査の自動化にも応用が進みます。
■ 監査人の役割変化
このような環境では、監査人の役割も大きく変わります。
従来はサンプル取引を抽出して証憑を確認していましたが、ブロックチェーン環境では全取引の完全データを検証可能になります。
その結果、監査の焦点は「取引の存在」よりも「システムの信頼性」や「スマートコントラクトの正確性」に移ります。
会計監査人や税理士は、ITリテラシーだけでなく、暗号技術・データサイエンス・サイバーセキュリティの知識を求められる時代に突入しています。
国際的には、IFAC(国際会計士連盟)がブロックチェーン監査に関する指針を検討しており、日本でも日本公認会計士協会・日本税理士会連合会が対応研究会を立ち上げています。
■ 実務導入に向けた課題
もっとも、ブロックチェーン会計・税務監査の導入には以下の課題もあります。
- データ連携の標準化:
企業間で異なるブロックチェーン基盤(パブリック/プライベート)をどう統合するか。 - 責任の所在:
分散台帳では「運営主体」が不明確になりやすく、誤記録やシステム障害時の責任分担が課題となります。 - 法的証拠力:
ブロックチェーン上のデータが「会計帳簿」として正式に認められるための法的整理が必要です。
技術的な信頼性が高くても、制度的な裏付けがなければ監査証拠として採用することは難しいのが現状です。
結論
ブロックチェーン会計と税務監査の融合は、透明性と効率性を飛躍的に高める一方で、専門職の役割を再定義する変革でもあります。
これからの時代、会計や税務の実務は「帳簿を見る」ことから「仕組みを理解する」方向へと進化します。
内部統制は、書類管理の世界からコードとデータの世界へ――。
この変化に対応できる専門家こそが、次世代の信頼インフラを支える存在となるでしょう。
出典
出典:Progmat公式発表資料、日本経済新聞(2025年11月5日「『株式トークン』日本でも」)
IFAC「Blockchain and the Future of Assurance」(2024年)
日本公認会計士協会「ブロックチェーン技術に関する研究報告」(2025年)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
