パートやアルバイトで働く人にとって「年収の壁」という言葉は、もはや身近な存在です。税金や社会保険料の負担が急に重くなり、手取りが大きく減ってしまう水準を指します。
よく知られているのは「103万円の壁」や「130万円の壁」。さらに、社会保険加入要件に基づく「106万円の壁」も重要になってきています。
この「壁」を避けようとして働く時間を調整する人も多いのですが、最低賃金の上昇により、これまでの常識が通用しなくなりつつあります。
新しく浮上した「週20時間の壁」
2025年度には全国の最低賃金が時給1,016円を超える見通しです。すると、週20時間働けば自動的に月収8.8万円(年収約106万円)以上になります。
つまり、これまでは「時給が低ければ20時間働いても106万円を超えない」ケースがありましたが、今後はどこで働いても20時間勤務なら要件を満たしてしまいます。結果として、「106万円の壁」という金額基準は実質的に消え、代わりに「週20時間以上働くかどうか」が新しい分かれ目になってきます。
「130万円の壁」とのはさみ撃ち
もう一つの大きな壁が「130万円の壁」です。ここを超えると配偶者の扶養から外れ、自分で国民健康保険や国民年金に加入しなければなりません。
従業員51人以上の会社では、週20時間以上働けば社会保険に加入できます。保険料は会社が半分負担してくれるため、実は国保・国民年金よりもお得です。
ところが、扶養に入り続けようと週19時間に調整した場合、時給が上がると状況が変わります。
- 時給1,300円までは扶養内(年収130万円未満)なので有利。
- 時給1,320円で130万円を超えると扶養から外れ、国保と国民年金に加入 → 年間保険料32万円前後。
この時、週20時間働いて社会保険に入った場合の保険料(20万円前後)よりも負担が大きくなってしまいます。
「19時間勤務」の落とし穴
かつては「週20時間を切れば社会保険を避けられる」ことが一つの工夫でした。ところが賃金が上がった今、19時間勤務でも年収130万円に届いてしまうケースが増えています。
たとえば、東京都や神奈川県では最低賃金が1,200円を超える見込みです。時給1,320円は最低賃金よりわずか100円高いだけ。普通に働いていたらすぐ「130万円の壁」に到達します。
結果として、「週19時間に抑えたはずなのに、国保・国民年金の高い保険料を払わなければならない」という不利な状況になり得るのです。
小規模企業で働くときの不利
もう一つ注意が必要なのが、働く会社の規模です。
- 従業員51人以上の会社:週20時間以上で社会保険加入可能
- 従業員50人以下の会社:フルタイムの4分の3以上(週30時間前後)が加入要件
同じ「週20時間勤務」でも、
- 大企業なら社会保険に入れて会社負担あり
- 小規模企業なら扶養から外れた場合に国保・国民年金を自分で全額負担
となり、後者の方が不利になるケースが目立ちます。
社会保険に入るメリットも見直そう
「保険料を払いたくないから扶養に入る」という考えは自然ですが、社会保険に入るメリットも見逃せません。
例えば、時給1,050円・週20時間勤務で1年間厚生年金に加入すると、将来の年金額は年間約5,300円増えます。65歳からの平均余命を考えると、合計で約13万円多く受け取れる計算になります。
単純に「今の手取り」だけではなく、「将来の年金」や「医療保険の保障」まで含めて考える必要が出てきています。
これからの働き方をどう選ぶか
最低賃金が上昇し続ける中で、年収の壁の実態は変わりつつあります。
- 「週19時間に抑える」作戦は、もはや安全ではない
- 「50人以下の会社」より「51人以上の会社」の方が有利になる場合が多い
- 社会保険に入ると将来の年金や保障が増える
という現実が見えてきました。
今後は「扶養の範囲に収めるための働き方調整」から、「長期的に得をする働き方選び」へ発想を切り替える必要があります。
まとめ
- 年収の壁は金額だけでなく「週20時間」という勤務時間基準が重要になった
- 時給上昇で「週19時間勤務」でも130万円の壁に当たるケースが増加
- 国保・国民年金の負担は社会保険より重いことも多い
- 会社の規模によっても有利・不利が変わる
- 将来の年金や保障まで見据えて判断することが大切
パートやアルバイトで働く方にとって、いま大きな転換点を迎えています。これからは「壁を避ける」よりも「自分にとって長く安心できる働き方」を考える時代になったのではないでしょうか。
(参考:日本経済電子版 2025年9月20日記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

