近年、米国の関税政策、いわゆるトランプ関税が再び注目を集めています。ニュースでは政治的な側面やマクロ経済への影響が語られることが多い一方で、中小企業や個人事業主の実務、とりわけ経理・税務への影響については十分に整理されていないと感じます。
国際取引は一部の大企業だけのものではなく、越境ECや業務委託、部品取引などを通じて、規模の小さな事業者にも身近なものになりました。そこで本稿では、関税の基本的な仕組みを確認したうえで、販売への影響、インコタームズとの関係、経理実務上のポイントを整理します。
関税とは何か、誰が負担するのか
関税とは、物品を輸入する際に、その国が課す税金です。形式的には、輸入通関を行い貨物を引き取る者が納税義務者となり、税関に対して関税を支払います。
重要なのは、「誰が関税を負担するか」と「誰が納税義務者か」は必ずしも一致しない点です。契約条件によっては、輸出者が関税相当額を負担するケースもあります。実務では、この違いを曖昧にしたまま取引を進めてしまうと、想定外のコスト増につながります。
最終的には、関税分が販売価格に転嫁され、消費者が負担することも少なくありません。つまり、関税は単なる税務の問題ではなく、価格戦略や競争力にも直結する要素です。
米国の関税政策と販売への影響
米国の関税政策は、国内産業の保護や政府収入の確保を目的としています。仮に関税による税収を法人税や所得税の減税原資に充てるとしても、輸入品に依存する事業者や消費者にとっては負担増となります。
日本企業の立場から見ると、影響の度合いは業態によって異なります。例えば、米国の消費者に直接販売する越境ECや、現地で商品を販売している場合、関税引き上げは価格上昇として直撃します。一方で、物品の輸出を伴わないサービス提供のみを行っている場合は、影響は限定的です。
また、直接の輸出者でなくても、米国向け販売を行う取引先に部品や商品を供給している場合、間接的に売上減少の影響を受ける可能性があります。関税は、自社だけで完結する問題ではない点に注意が必要です。
国際取引とインコタームズの重要性
関税負担を理解するうえで欠かせないのが、インコタームズです。インコタームズは、国際取引における費用負担や危険負担の範囲を定める国際的なルールで、契約書やインボイスに記載されます。
実務でよく使われる条件としては、EXW、FCA、FOB、CPT、CFR、CIF、DDPなどがあります。これらは、「輸送費」「保険料」「関税・輸入通関費」を売主と買主のどちらが負担するかを整理するための枠組みです。
特にDDP(関税込み持込み渡し)は、売主が輸入通関や関税まで負担する条件であり、輸出者にとって責任範囲が広くなります。実務上、コスト見積りが難しく、想定外の負担が生じやすいため、慎重な判断が求められます。
関税と経理処理の基本
経理実務では、関税は通常「租税公課」として処理されます。ただし、棚卸資産や固定資産の取得に伴う関税については、その取得価額に算入する扱いが一般的です。これは、税務上の原則に基づく処理です。
また、輸入時には関税だけでなく、輸入消費税も発生します。輸入消費税は、通関業者を通じて納付されることが多く、請求書上も関税とは別に表示されます。税抜経理か税込経理かによって仕訳は異なりますが、いずれにしても区分を明確にすることが重要です。
輸送費や通関費についても、国内で行われるサービスか、外国貨物に対するサービスかによって、消費税の課税・不課税・非課税の区分が変わります。細かな点ですが、税務調査では確認されやすいポイントです。
実務で意識すべきポイント
国際取引における経理実務で重要なのは、個別の仕訳を丸暗記することではありません。取引の流れを理解し、「誰が」「どこで」「何を負担しているのか」を整理できることです。
関税やインコタームズは難解に感じられがちですが、全体像を押さえれば、必要な論点は自然と見えてきます。初期段階で体系的に理解しておくことが、結果的に実務の近道になります。
結論
トランプ関税に象徴される関税政策の変化は、中小企業や個人事業主にとっても無関係ではありません。関税は税金であると同時に、価格、契約条件、経理処理に影響を及ぼす経営要素です。
国際取引を行う場合には、関税の基本、インコタームズの意味、会計・税務上の取扱いをセットで理解することが不可欠です。細かな論点は後から補うとしても、まずは全体の流れを把握することが、安定した実務運営につながります。
参考
・『企業実務』2025年11月号
「国際取引に係る会計処理の基本と関税・インコタームズの整理」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
