ストックオプション利益の「申告漏れ」多発?――会計検査院が指摘、国税庁が調査強化へ

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■ なぜ今、ストックオプションが問題になっているのか

会計検査院が10月20日に公表した調査によると、企業が役員や社員に付与したストックオプション(株式購入権)を行使して得た利益の申告漏れが多数発生している可能性があることが分かりました。
わずか2年間で、約150人が計60億円超の利益を得ていたにもかかわらず、課税の有無を確認できていなかったという衝撃的な内容です。

ストックオプションは企業の成長とともに社員が利益を得られる「成功報酬」的な制度ですが、課税関係が複雑で、税務申告の理解不足や処理ミスが起こりやすい領域です。


■ ストックオプションの2つのタイプ

ストックオプションには、大きく分けて次の2種類があります。

種類概要課税のタイミング
税制適格型一定の条件を満たすと、行使時に課税されず、株式を売却した時点で譲渡所得として課税株式売却時
税制非適格型条件を満たさない場合。行使時点で株価と行使価格の差額が「給与所得」として課税権利行使時(給与課税)

今回の調査では、適格型で116人が計18億8千万円分を無申告非適格型では34人が計41億5千万円分の課税漏れとみられています。


■ なぜ「無申告」が起こるのか

本来、ストックオプションを行使すると、企業や証券会社は税務署に届け出を行い、国税庁は「行使者リスト」を作成します。
ところが、今回の会計検査院の指摘では――

  • 株式売却益の情報が不十分で、リストの共有が徹底されていない
  • 税務署がリストを有効活用できていなかった
  • 納税者本人が「申告不要」と誤解していたケースもある

といった実務上の問題が重なっていたことが明らかになりました。


■ 国税庁の対応と今後の動き

国税庁は、今回の指摘を受けてリストの活用方法や調査体制の見直しを実施。2025年8月に全国の税務署へ通知を出し、過去分も含めた厳格な精査を進める方針を示しています。
もし申告漏れが確認された場合には、追徴課税(加算税・延滞税など)が課される可能性があります。


■ 実務で気をつけたいポイント

ストックオプションを保有・行使した経験がある方、あるいは企業の経理・人事担当者は、以下の点を再確認しておく必要があります。

① 税制適格型か非適格型かを必ず確認

付与時の契約書や株主総会議事録で、税制適格要件(権利行使期間、譲渡制限など)が満たされているかを確認。

② 行使時・売却時の税務処理を明確に

非適格型なら「行使時に給与課税」、適格型なら「売却時に譲渡所得課税」と、処理タイミングが異なります。

③ 源泉徴収・申告の漏れに注意

企業側は非適格型ストックオプションの行使時に源泉徴収義務があり、社員側も確定申告が必要な場合があります。


■ まとめ ― AI時代にも問われる「人の理解」

近年は、AIが税務データを自動照合する仕組みも進みつつありますが、「制度を理解して正しく申告する」責任は最終的に人にあります。
ストックオプションは、働き方や報酬の多様化を象徴する制度のひとつ。今回の会計検査院の指摘は、複雑化する税務の現場に「人の目」を取り戻す必要性を示しています。


出典:2025年10月21日 日本経済新聞朝刊「ストックオプションで得た利益、申告・課税漏れ多発か」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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