ステーブルコイン・CBDC導入時の会計・税務・監査のポイント ― 実務対応編

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1. デジタル通貨が「業務会計」に入ってくる時代

ステーブルコインや中央銀行デジタル通貨(CBDC)が登場し、
「お金の姿」そのものが企業会計の内部に入り込む時代が近づいています。
特に、金融庁が銀行グループによる仮想通貨取引を認める方向を打ち出したことで、
一般企業の財務・経理現場も、「取引通貨の多様化」への実務対応が求められる局面に入っています。

本稿では、実務家として押さえるべき

  • 会計処理
  • 税務上の取扱い
  • 監査・内部統制対応
    を中心に整理します。

2. ステーブルコインの会計処理 ― 「裏付け資産の性質」で判断が分かれる

ステーブルコインは「法定通貨建ての価値を保つ暗号資産」ですが、
その裏付け資産(デポジット・国債・短期証券等)の内容によって会計処理が異なります

ケース裏付け資産の構成会計上の区分備考
① 法定通貨預金100%銀行預金と実質同等現金預金換金リスクが極めて低い
② 短期国債・CP含む金融資産(その他流動資産)時価評価 or 取得原価信用リスク要素あり
③ ブロックチェーン担保型(USDC等)暗号資産時価評価(評価差損益計上)仮想通貨的性格が強い

会計基準上の明確な指針はまだ整備途上ですが、
日本基準(企業会計基準第29号「収益認識」やIAS第7号「キャッシュ・キャッシュエクイバレント」)の考え方を踏まえると、
流動性・換金性・価格変動リスクの3点で分類判断を行うことが実務的対応です。


3. 税務処理 ― 「通貨」か「資産」かの区別がカギ

(1)法人税上の位置づけ

  • ステーブルコインが「外貨預金等と同様に取り扱える」場合は、評価差益・差損を認識しない(非課税)
  • 仮想通貨と同様の「資産」扱いとされる場合は、期末時価評価が必要(課税対象)

したがって、発行体・担保構造・換金性に応じて、税務区分の整理が不可欠です。
税理士・会計士は、契約書・ホワイトペーパー・監査報告書等を確認し、
「どの資産区分に該当するか」を明確に判断する必要があります。

(2)消費税

現行法では、法定通貨と同様の支払手段は非課税取引に分類されます。
一方、仮想通貨(暗号資産)は非課税資産取引として扱われますが、
「ステーブルコインの発行・譲渡」がサービス提供に該当する場合、一部課税対象の可能性があります。

今後の資金決済法改正・消費税法通達の整備に注目すべき領域です。


4. CBDCの会計処理 ― 「現金預金」区分が基本線

CBDC(中央銀行デジタル通貨)は、中央銀行が直接発行する法定通貨であるため、
企業会計上は原則として「現金預金」として処理される見通しです。
企業が保有するCBDCウォレットは、日銀当座預金に準じた性格を持つため、
現金同等物として期末残高に含めるのが自然です。

ただし、次のような留意点があります。

  • CBDC特有のシステム障害や接続制限による「アクセス不能期間」が発生した場合、流動性の制約リスクを注記する必要あり
  • 匿名性の制限(トレーサビリティ確保)に伴い、個人情報・会計データの保護体制も求められる

監査人は、これらのアクセス・内部統制・残高確認の実証方法を新たに設計する必要があるでしょう。


5. 内部統制・監査対応 ― 「デジタル資産管理フレームワーク」の構築を

ステーブルコイン・CBDCを業務で扱う場合、次のような内部統制の整備が必須です。

管理項目目的具体的な対応例
アクセス管理不正送金防止多要素認証、ログ監査、ウォレット権限分離
取引記録会計・税務証跡ブロックチェーン上のトランザクション記録の保存
評価管理時価変動リスク対応期末時点の価格データ検証、外部API信頼性確認
情報開示監査・金融庁対応デジタル資産残高・取扱方針の注記開示
セキュリティサイバー攻撃対策ハードウェアウォレット・暗号鍵保管ルール策定

監査法人としても、「ブロックチェーン上の残高確認手続」をどのように実務化するかが課題になります。
特にステーブルコインは、発行体・預託先・利用プラットフォームが分離しているため、三者確認(トリプレット・リコンサイル)が必要になる場面も想定されます。


6. 経理・税務部門が今から準備すべきこと

  1. 取引先・決済手段にデジタル通貨が含まれる可能性を想定
     (契約書や請求書フォーマットの見直し)
  2. ウォレット管理方針・アカウント権限のルール化
     (責任者と会計担当の分離)
  3. 会計ソフト・ERPの対応状況を確認
     (弥生・freee・マネーフォワード等が今後対応予定)
  4. 税務区分の事前整理
     (資産区分・評価・消費税判定を明文化)
  5. 監査人・顧問税理士との事前連携
     (評価・残高確認・証憑保管に関する統一方針を策定)

7. 今後の展望 ― 「デジタル会計時代」の幕開け

ステーブルコインやCBDCの普及は、会計・税務・監査の領域を再構築する動きです。
貨幣がデジタル化するということは、

  • 「決済」と「会計記録」がリアルタイムで一体化する
  • 「税務データ」が自動で可視化される
    という、業務の根本的変化を意味します。

デジタル通貨の時代においては、
会計人が「お金の動きを記録する人」から「お金の仕組みを設計する人」へと変わる。

その第一歩が、今回のステーブルコイン・CBDC対応と言えるでしょう。


出典・参考

  • 「仮想通貨、銀行系に解禁」日本経済新聞(2025年10月22日)
  • 「ステーブルコイン『銀行預金を一部代替も』」日本経済新聞(2025年10月22日)
  • 金融庁「金融審議会・決済法制の見直しに関する資料」
  • 日本銀行「CBDCパイロット実証報告書(2025年)」
  • 日本公認会計士協会「暗号資産・デジタル通貨の会計処理に関する研究報告」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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